東電福島第一原発では、新たに原子炉格納容器の破損や高濃度放射能漏れが起き、危険性が一段と増した。政府、東電は最悪の事態回避に全力をあげよ。
第一原発には六基の原発があり、うち4〜6号機の三基は地震当時、定期検査中で原子炉は停止していた。
だが、その停止中のはずの4号機で十五日朝になって、水素爆発が起き、原子炉建屋が損傷し、高濃度の放射能が環境に拡散した。
原子炉から取り出した使用済み燃料が原子炉建屋のプールに一時貯蔵されており、冷やす必要があったが、地震で冷却水を循環させる電源が失われていたため、温度が上がり、水位が低下したのが原因とみられる。
◆「最後の砦」が危うい
これに先立ち2号機も極めて深刻な事態に見舞われた。自動停止した1〜3号機の中で最も損傷が少ないと楽観視されていたが、十四日午後になって二度にわたり長時間、圧力容器内の水位が急速に下がり、夕方から核燃料が水面から露出した“空だき”が起きた。
格納容器の下部につながっていて炉心の圧力を下げる働きをする「圧力抑制室」の損傷など、格納容器の破損も分かった。核燃料の一部が溶ける炉心溶融も起きたらしい。
格納容器は放射能の放出を食い止める最後の砦(とりで)である。それが破られたという意味でこれまでとは違う展開を見せ始めたといっていい。
だが、事態をこれ以上悪化させず、爆発に至らせなければ、旧ソ連の原発事故のような大量の放射性物質の環境への放出は回避できる。政府、東電は原子炉の冷却に全力をあげなければならない。
同時に政府は国民の不安解消のために、遅滞なく適切な情報を分かりやすく提供すべきだ。
◆偽情報に注意しよう
3号機付近では「身体に及ぼす可能性のある数値」(枝野幸男官房長官)の毎時四〇〇ミリシーベルトの放射線量が午前中に観測された。日本人が一年間に自然界から受ける量の四百倍だ。
一度に浴びる量が一〇〇ミリシーベルト以下なら健康被害はないとされるが、注意は必要だ。
環境に放出された放射能は大気で拡散するため、遠距離ほど受ける放射線量が減少する。
とはいえ原発立地県以外の都道府県も放射能レベルを測定するモニター体制を整備して情報を常時住民に流すことを考えるべきだ。
原発立地県では放射性ヨウ素が人体に入った場合の健康被害を防ぐ「安定ヨウ素剤」を備蓄しているが、他の都道府県でも準備をしておくのが望ましい。
放射能が目に見えないだけに、恐怖心に便乗したチェーンメールが飛び交っている。被ばく防止のためにヨウ素を多く含む昆布などの摂取を勧めているが、海藻で「安定ヨウ素剤」と同じ量をとるのはほとんど不可能といわれる。ヨウ素入りのうがい薬は、飲むことを想定しておらず、飲むと有害作用を及ぼす危険さえある。
こうした偽情報に惑わされることなく、知人にもメール送信しないようにしよう。新聞報道など信頼できる情報を参考にしたい。
それにしても、原発事故をめぐる菅内閣の危機管理能力は欠如していると指摘せざるを得ない。
政府が東電との事故対策統合連絡本部を設置したのは地震発生から五日目の十五日朝。
菅直人首相はその後、東電本店を訪れ、「テレビで爆発が放映されているのに、首相官邸には一時間くらい連絡がなかった。一体どうなっているんだ」と迫った。
発生直後から東電からの報告遅れが続いたからだろうが、国民が「どうなっているのか」と問い詰めたいのは菅内閣の方だろう。
本来なら事故発生直後から、政府と東電が一体となって、最悪の事態も想定して万全の対策に当たり、正しい情報を国民に分かりやすく発信し続けるべきだった。
事態の深刻化に伴って避難指示の範囲がなし崩し的に拡大されれば、対象地域の住民はもちろん、その周辺住民にも不安が広がるのは当然である。
菅内閣の対応が後手に回っているのは、根拠のない楽観論に基づいて東電からの報告をうのみにしているからではないのか。
十四日夜の段階ですら、枝野官房長官は「最悪の事態を想定してもチェルノブイリと同様にはならない」と口にしていた。
◆危機克服に衆知集めよ
民主党の提案で政府と与野党との合同対策本部が設置される。
民主党にとって危機管理の経験のなさは政権の弱点と指摘されてきたが、今はそれを指弾するよりも補完する方が国民の生命と財産を守ることになる。危機克服に向けて衆知を集める時である。
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