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市街地だった場所をがれきが覆い尽くす。泥の中から突き出した腕。コンクリートの廃材から足だけが見える。まるで爆撃を受けたような惨状だ。生活の痕跡がかろうじて残る。ぬいぐる[記事全文]
福島第一原子力発電所は、火災や水蒸気発生が続き、放射線量が増大している。危険な作業を続ける人たちを、国内の人や組織をあげて支援しなければならない。新たに、3号機と4号機[記事全文]
市街地だった場所をがれきが覆い尽くす。泥の中から突き出した腕。コンクリートの廃材から足だけが見える。まるで爆撃を受けたような惨状だ。
生活の痕跡がかろうじて残る。ぬいぐるみ、ハイヒール、結婚写真……。家族を亡くしたのか、泣きながらアルバムを掘り起こす若い女性がいた。
巨大な津波に襲われ、壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町。1万7600人が暮らしていたが、その半数近い8千人の安否がわかっていない。
余震が続くなか、寒波が戻り、底冷えのする被災地に入った。
高台の避難所では寝具が足りない。教室のカーテンにくるまって寝る子がいる。停電が続くが、発電機はない。暖をとるストーブも少ない。赤ちゃんのミルクは底をつこうとしている。
ここだけではない。東北地方を中心に40万人以上が避難所に身を寄せるが、物資は決定的に不足している。
道路が寸断され、救援がまったく届いていない地域もある。
急がねばならないのは、かろうじて難を逃れた人々が命をつなげるよう、必要な物資を手元に届けることだ。
南三陸町の避難所を支える町総務課長の佐藤徳憲さん(60)は、妻の安否が確認できていない。地震の直後、役場に近い自宅に戻り、避難するよう妻に告げたが、逃げる途中で津波に遭うのを怖がる妻は家に残った。
役場は骨組みだけを残して津波に破壊され、屋上に逃げた佐藤さんは自宅が流されていくのを目の当たりにした。「自分はこの仕事があるから、妻を捜しにいけない」と言う。
被災した人々を懸命に支えるのも、やはり被災者である。
戦後最悪の自然災害と言われた阪神大震災に比べても、支援の届き方は少なく、遅い。
その規模さえいまだにはっきりしない被害の大きさに加え、原発事故も救援の行く手に立ちはだかっている。
政府だけではなく各地の自治体は応援を急ぎ、条件が整えばボランティアも被災地に駆けつけてほしい。
牡鹿半島などの海岸には遺体が次々と打ち上げられている。自衛隊員らが捜索にあたるが、余震に中断され、思うようにはかどらない。
遺体の傷みがひどくなりつつある。土葬が検討されている。身元が確認できないまま埋葬する事態も覚悟しなくてはならないだろう。
そうした際にはDNAを保存しておく必要がある。警察だけでなく、研究者らも協力して、遺族が見つかれば確認できる態勢を整えてもらいたい。
集落ごと津波にさらわれたという情報もあり、壊滅の言葉が誇張ではなく使われる。街ごと消えるという事態をどう受け止めるのか。被災地のために何ができるのか。手をつくしたい。
福島第一原子力発電所は、火災や水蒸気発生が続き、放射線量が増大している。危険な作業を続ける人たちを、国内の人や組織をあげて支援しなければならない。
新たに、3号機と4号機で使用済みの核燃料を保管しているプールが過熱して、危うい状態になった。
使用済みの核燃料は、運転中の原子炉の中の燃料に比べれば温度は低い。しかし、プールの水を循環させながら冷やさないと、徐々に温度が上がる。
こうしたプールは、原発と同じ建屋の中にあるが、原子炉格納容器のような密閉した構造ではない。水がなくなれば、燃料棒が自らの熱で壊れ、放射線が飛び出す恐れが大きい。
炉心に海水を注入して冷やす難しい作業も、1号機から3号機まで続いている。いずれも建屋や関連装置がこれまでの爆発や火災で壊れ、周辺で強い放射線が検出されている。
注水や消火にあたる作業員は、健康被害を最小限にするために、短い時間で交代しなければならない。それでも危険をおかし、疲労も限界に近いだろう。国が作業員の被曝(ひばく)線量の上限を2倍以上に引き上げたのは、作業員の人数が足りない表れだ。
最前線で闘う現場を支えるために、何ができるかを考えねばならない。
菅直人首相を本部長とする福島原子力発電所事故対策統合本部が東京電力本社に置かれ、両者が一体となって、この危機に向かう態勢になった。
むろん、対応の最前線に立つのは、現場を熟知した東電だ。
しかし、他の電力会社の支援ももっと生かせるのではないか。すでに、東電の要請に応じて、発電機車や化学消防車などの資材とともに応援の技術者らが派遣されている。必要なら、もっと思い切って応援を求めてもいい。現場へ送電線を引く作業など、同じ業界ならではの技術が役立つ分野はあるに違いない。経験を役立てたいという、技術者の声も上がっている。
プラントの技術を持ったメーカーはもちろん、輸送など他産業にも、東電は広く支援を求めて、この国家的危機にあたるべきだ。
そこで大切なのは情報の共有だ。これまで東電は、情報を抱え込んでいないかと疑念をもたれることもあった。
例えば自衛隊は、東電の要請で原発の冷却作業を支援したが、3号機の爆発で隊員4人が負傷した。東電は情報を十分に出しているのかと、不信も芽生えた。自衛隊はヘリコプターから3号機に注水する難作業にも取り組み、重要な役割を担う。
様々な組織が技術を生かして危険な作業にあたるために、情報を分かち合うことが今まで以上に重要になる。
原子力安全委員会や日本原子力学会など専門家の知恵も集めたい。