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日本がいま直面しているのは、超級の規模の震災だ。「マグニチュード9.0」という地震のエネルギーだけでない。痛みも、悲しみも、その大きさは計りしれないほどだ。でも、負ける[記事全文]
東日本大震災に伴う原子力発電所の危機が続いている。緊急炉心冷却システムの不全、放射性物質を含む蒸気の外部への放出、炉心溶融、建屋の爆発、海水注入、周辺の住民の被曝(ひば[記事全文]
日本がいま直面しているのは、超級の規模の震災だ。「マグニチュード9.0」という地震のエネルギーだけでない。痛みも、悲しみも、その大きさは計りしれないほどだ。
でも、負けるわけにはいかない。
壊滅に近い被害を受けた地域の様子が、少しずつわかってきた。宮城県南三陸町は、町民の半数以上の安否が不明なままだ。岩手県大槌町は、町長とも連絡がとれていない。
「とにかく地獄。見た者じゃなきゃわからない」とつぶやく男性がいた。水の中を逃げるとき、握りしめた手が離れたきりの、妻を捜す男性がいる。「お母さんを捜してください」と、泣き叫ぶ少女がいる。
取り残された生存者の救助を、まずは急がなければならない。
交通も通信手段も断たれた中、見落とされている場所や人はないか。救助要員やヘリコプターは足りているか。主力となる自衛隊は史上最大規模の展開をとろうとしている。
各地の避難所には、きのう現在で三十数万人の人がおり、阪神大震災時のピークを超えた。福島原発の状況も予断を許さない。救援の拡大とともに、避難者数はさらに膨らみ、長期化するのは必至だ。
大量の救援物資――水、食料、医薬品、そして燃料が必要だ。
孤立している場所にヘリや船で届けることに加えて、広範な被災地域に長期にわたって供給するための本格的な態勢を築かねばならない。
現地でスーパーやコンビニが果たす役割は大きい。農林水産省は食品メーカーの協力を求め、食料を運ぶ準備を進めている。トラック・運送業界あげての緊急物資輸送も始まっている。
燃料も、病院の自家発電機や避難所での暖房用など、命に直結する物資だ。また、今後は仮設住宅も大量に不足するだろう。住宅メーカーは増産を急いでほしい。
被災地では、役場の機能が失われてしまった自治体が少なくない。後方の自治体からの職員派遣や、疎開者の受け入れなど、行政の枠や県境を越えての協力が求められてもいる。
きのうは片山善博総務相が現地を視察した。支援に死角や混乱が生まれないよう、政府の調整力が重要だ。
被災していない地域の市民にも、すべきことはたくさんある。
電力不足のため、政府は国民に節電への協力と、計画停電への理解を求めた。義援金の窓口も設けられた。幾多の災害を経験した私たちは、しなやかな共助社会を培ってきたはずだ。
M9.0への地震規模の修正は、予想される余震の規模も大きくなるということだ。次の大災害がいつ、どこを襲うかもわからない。
日本全体の心構えが問われている。
東日本大震災に伴う原子力発電所の危機が続いている。
緊急炉心冷却システムの不全、放射性物質を含む蒸気の外部への放出、炉心溶融、建屋の爆発、海水注入、周辺の住民の被曝(ひばく)。いずれも、単独でも極めて深刻な事態である。
このような非常時に、政府の最重要の使命は住民の安全確保だ。そのためには、国民や自治体が惑わぬように、的確で素早い情報提供が必須だ。
福島第一原発の一連の緊急事態で、これまでの東京電力と政府の広報は、この原則にそった住民の安心にこたえるものだったとは思えない。
第一原発1号機で12日にあった爆発の際は、放射性物質の封じ込めを担う原子炉格納容器が爆発でどうなったかの説明がないまま、福島県に対し避難区域を半径10キロから20キロに拡大するよう官邸から指示が出た。これでは「念のため」といっても、むしろ不安をあおったのではないか。
13日には3号機も炉心溶融の恐れがあって蒸気を放出する新たな緊急事態になった。枝野幸男官房長官は、1号機と同じように水素による爆発の危険があることを率直に語った。
このような、おこりうる事態を積極的に説明することが、現代社会ではむしろ理解と納得を得られる。
1979年に米国で起きたスリーマイル島原発事故は、炉心が溶けて放射性物質が外部に出たが、建物が壊れることはなかった。
しかし、州政府が詳しい説明をしないまま、半径8キロ以内の妊婦と乳幼児に避難を指示したため、様々なうわさが流れた。不安にかられた多くの住民が我先に避難し、道路は渋滞して大混乱になった。
確かな情報がいかに大切かを示している。
国民に理解と協力を求めるには、正確な情報をわかりやすく、時機良く説明することが欠かせない。フランスでは、原子力の規制当局の幹部が一貫して、テレビで国民に対する説明役を務めるという。
世界を恐れさせた2年前の新型インフルエンザ流行の際にも、信頼できる説明役の大切さが示された。世界保健機関(WHO)や米国では、責任ある地位の専門家が常に状況を説明した。このことで人々は、事態は深刻でも対応の方法があることを理解できた。
福島原発ではなお、複数の原子炉で炉心溶融の危機が続いている。
こういう非常時にこそ、国民の信頼を集めることができる専門知識のある説明者が必要だ。専門家による言葉で、政治の呼びかけを補強できる。
具体的な情報なしに「問題はない」「念のため」を繰り返しては、むしろ不安が増すことを考え、受け手の側に立った説明をしてほしい。