三陸海岸を宮城県の気仙沼から、岩手県へと昔、列車で旅したことがある。マグロ、カツオ、サンマの水揚げ高が日本有数の気仙沼港は活気に満ち、民宿で旬の魚を堪能した▼美しいリアス式海岸の奥にある東北最大の漁港は津波で壊滅してしまった。市街地は一晩中燃え続けた。隣の岩手県陸前高田市では木造家屋が跡形もなく消え去った。市の中心部を撮影した本社ヘリの写真を見ると、空襲で焼き尽くされた後のようだ▼過去最大の震災から一夜明けたきのう、目を背けたくなる過酷な被害状況が刻一刻と入ってきた。救助を待つ人たちに、少しでも早く救援の手が届いてほしいと願うばかりだ▼関東大震災や阪神大震災と比べると、今回の震災の被害は東日本の広い範囲に及んでいる。経験したことがない巨大な災害に私たちの社会が今向き合っていることを自覚させられる▼安全性が喧伝(けんでん)されてきた原発が、重大な危機を迎えたのも初めての経験だ。原子炉の冷却機能を失った東京電力福島第一原発1号機の圧力を下げるため、東電は放射性物質を自ら放出する異例の決断をした▼避難指示の範囲は半径二十キロに拡大されたが、政府は詳細なデータを明らかにしていない。政府や東電を信じていた住民は裏切られた思いだろう。大量の放射性物質が放出される最悪の事態を避けられないか。祈るような気持ちでいる。