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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
一時(いっとき)まどろんで、夢であってくれと思った。でも心身は正直だ。余震とも身震いともつかぬ揺れが抜けない。東北の被災地まで及ばない想像力に代わり、CMの消えたテレビが翌朝の現実を伝えた▼岩手県から福島県にかけての太平洋岸は、水火に攻められ、ほぼ壊滅状態という。凍る街に船が転がり、畑に車が散乱する。潮は引かず、逃れ来た屋上は孤島と化した。避難所にたどり着いても家族はちりぢり、食料や日用品が足りない。死者・不明者は1500人を超えて増え続けている▼福島県下の原発では、急場に炉心を冷やす装置が使えなくなった。住民が避難する中、放射能が漏れ、建屋が爆発する不穏な事態に。非常時ほどありがたい電気だが、危うい綱渡りの産物と思い知る▼東京では数万の帰宅難民が出た。夜の甲州街道を、新宿方面から郊外へと、早足の人波が車道にはみ出して動いていた。ベビーカーを押す男女がいる、黄色帽にランドセルの少女がいる。都心の公共施設で夜を明かした人も多い▼自民党幹部は「全面協力する。与党のやりたいようにやって」と、民主党に政治休戦を伝えた。卒業式や入試、各種の催しも延期や中止となった。あまたの教訓は後回しでいい。日常をいったん断ち切り、まずは国を挙げての救援活動だ▼政治が迷い、経済はまだもろい。そこに「観測史上最大」である。テレビを抱えて揺れながら、揺られるしかない無力が悔しかった。人は弱い、弱いから支え合うほかない。長い災害の歴史が、日本という国の地力を試している。