夢であってほしい。そう願いながら、テレビの映像に目を奪われていた。漁船や住宅、乗用車、トラックが濁流にのみ込まれていく。自然の猛威の前で人類が営々と築いてきた文明がいかに無力か思い知らされた▼三陸沖できのう起きた大地震は、国内で観測史上最大となるマグニチュード8・8ものエネルギーだった。死者、行方不明約三千人を出した一九三三年の三陸沖地震を上回る規模の津波が沿岸を襲った▼集落ごと流された地域もあった。犠牲者がどれだけ増えるのか想像もつかない。千葉ではコンビナートが大火災を起こし、安全なはずの原子力発電所も不安をさらけ出し、政府は緊急事態宣言を初めて発令した▼東京でも震度5強を記録した。緊急地震速報に身構えていると、経験したことのない揺れが来た。書棚が倒れ大量の本が崩れ落ちた。余震による船酔いのような揺れが体に染み付いて離れない。首都圏では多くの「帰宅難民」が生まれ、家族と連絡が取れず不安な夜をすごした人も多い▼地球の身震いが起こした数十秒の揺れはかけがえのない命を奪い、ささやかな日常を破壊した。地震国で暮らすことを再認識するには辛(つら)すぎる試練である▼隣国が相次いで支援を表明している。<真の友は災難の時に知る>(ロシアの諺(ことわざ))。被災した人たちのために、私たちは今何ができるのか。真剣に考えたい。