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テレビ画面を正視することができなかった。がれきと海水の混じり合った津波が、濁流のように家を、畑を、道路を呑(の)みこんでいく。走っている車に波がのしかかる。ああ、だれが乗っているのだ。お父さん?お母さん?兄さん姉さん?――だれかにつながる、かけがえのない命が呑まれていく▼マグニチュード8.8の猛烈な揺れ。被害はどれほど広がるのか。震源から遠い東京でも震度5強で揺れた。黒煙を上げるビルが職場の窓から間近に見える。この一文を書いている間にも、大地は不気味に揺れ続けている▼三陸地方は津波の常襲地とされる。過去の幾多の犠牲と引き換えにつくられた様々な手だても、自然の猛威に破られた。天変地異の脅威をあらためて思う。各地の爪痕の少しでも小さいことを、ただただ祈る▼日本列島はプレートのぶつかり合う上に乗る。その危うさを物理学者の寺田寅彦は「国土全体が一つのつり橋の上にかかっているようなもの」とたとえた。「つり橋の鋼索が、あすにも断たれるかもしれない」と警鐘を鳴らした。その鋼索が、切れた▼気象庁によれば、東北沖から関東沖まで、数百キロにわたって断層が動いたようだ。点ではなく線である。予想される東海地震や東南海地震に匹敵する巨大地震が起きた。明治以来の観測史上国内最大という▼夜が明ければさらなる被害が確かめられよう。生命、財産、故郷の町並み。失われたものの大きさに打ちのめされる人たちとの絆を失うまい。こんなときにつなぐための手が、私たちの心にはある。