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2度、3度、4度と、強烈な揺れが日本列島を襲った。そして巨大な水の塊が、太平洋岸に押し寄せた。
海へ、海へとひきずられてゆく車。流れ出す建物。みるみる水没してゆく漁港、住宅街。そのなかに助けを求める人も多くいたに違いない。
マグニチュード(M)8.8という国内観測史上、最大のエネルギーの地震だった。宮城県栗原市で震度7。余震も何度もやってきた。
北海道から四国までの太平洋岸で大津波警報が発令され、最大で7.3メートル以上の津波が観測された。
■国内最大の地震
恐ろしいほど多くの人命が失われ、行方不明になった。
多くの人が、寒く不安な夜を過ごした。肉親の安否がわからない人もいよう。心から無事を祈りたい。みんなで力をあわせて救援を急ごう。
揺れによる被害は各地でおきた。
建物崩壊や天井の落下、家屋やコンビナートの火災もおきた。一部の空港が閉鎖され、新幹線をはじめ交通機関が止まった。東日本の広い範囲で停電した。
福島第一原子力発電所では、停電に加えて非常用発電機も動かず、緊急炉心冷却システムが働かない状態になった。安全のために最も重要なシステムであり、あってはならないことだ。政府は初の原子力緊急事態を宣言し、福島県は念のため、住民に避難を呼びかけた。安全策を再点検すべきだ。
首都圏のJRや地下鉄が長時間止まり、何万人もの人が家に帰れなくなったのも初めての経験だ。
政府は地震発生から約30分後、菅直人首相を本部長とする緊急災害対策本部を設置した。
まず、全力を挙げて被害状況の把握を急がなければならない。激しい揺れに大津波が重なり、火災も各地で起きた。自治体や各機関の情報を集約し、迅速な対応につなげたい。
国民に向けて、正確で冷静な情報発信をすることが重要だ。
■政府は今こそ国民を守れ
広域にわたる救援態勢をいかに築くか。これも、日本が経験したことのない試練だろう。警察、消防、医療機関など救援者自身が被害にあっている。他地域からの応援が不可欠だ。陸路も寸断されている。
菅首相は、自衛隊の最大限の活動を北沢俊美防衛相に指示した。部隊は現地に向けて急いでほしい。
国は阪神大震災後、広域災害に備えて災害派遣医療チームを各地に整備してきた。たとえば自衛隊のヘリの機動力を生かし、できるだけ多くの医療チームを被災地に運べないか。
家を失った人がたくさんいる。津波は内陸のかなりの距離まで及び、被災地はがれきに埋まっている。身を寄せるところのない人々の一時疎開を、被災を免れた自治体が受け入れることも必要かもしれない。
政治は何をすべきか。
今こそ、国民の生命や財産を守るため、全力を挙げる時である。
与野党はこれまで、予算案や関連法案、政治とカネの問題などをめぐって対立を続けてきた。だが大地震を受けて、菅首相が対策への協力を要請し、各党が応じる姿勢を示した。
この災害に見舞われ、ようやく力をあわせる機運が見えてきた。当然のことであろう。
まずは、首相や閣僚が国会対応に手をとられずに、対策に専念できる環境をつくることだ。
経済や社会の動揺も抑えなければならない。今後必要になるだろう補正予算への対応も含めて、各党が協力することが、大災害を乗り切る力になる。
大津波に襲われた東北地方の太平洋岸は、日本でも有数の津波の常襲地帯である。
リアス式の美しい海岸と海産資源の豊かな海は、人々の生活の糧となる。その一方で、この屈曲した地形こそが、いったん津波が発生すれば、その波を増幅させることになる。
■繰り返される大災害
1896年の明治三陸大津波では死者2万2千人という、史上最大の被害が出た。人々は家を高台に移した。しかし、漁業に携わる人たちは、やはり海岸近くに戻った。
37年後の1933年、三陸沖で再びM8.1の巨大地震が発生した。この地震で、昭和三陸津波と名付けられた最大約28メートルにも及ぶ大津波が起き、3千人を超す死者・行方不明者が出た。
こうした津波は、東北地方に限らない。地震国に住む私たちは、海岸に近い地帯はどこでもその危険があると忘れず、改めてその備えを強めなければならない。
海辺で大きな地震を感じたら、すぐに避難しよう。海に近い川沿いも危ないことも、きのうの地震でわかった。
避難の難しい高齢者も多い。ふだんから、助け合うための仕組みを整えておく必要がある。
今回の巨大地震は、プレート境界に位置する日本列島に、対策が待ったなしの課題であることも突きつけた。
東海地震や東南海・南海地震は、必ずやってくる。それが起きれば、津波はもちろん、東海地方から西日本にかけて、甚大な被害が予想されている。
建物や土木構造物の耐震化を図り、避難の態勢を整えること。こちらもまた、待ったなしの課題である。