公正取引委員会は企業の合併・買収(M&A)に関する審査手続きと審査基準を見直すことになった。企業再編を促して国際競争力強化を図ることが狙いだが、消費者の利益を忘れてはならない。
新興国の急成長や情報通信技術(ICT)の発達で経済のグローバル化が一段と加速している。日本企業が世界市場で生き残るには合併や事業統合による規模の拡大などで競争力を強化しなくてはならない。
家電大手のパナソニックが三洋電機を子会社化し、半導体ではNECエレクトロニクスとルネサステクノロジが合併した。最近では来年十月を目標とする新日本製鉄と住友金属工業の合併計画が浮上した。将来は自動車などで国境を越えた大型合併が予想される。
公取委の見直し案はこうした世界経済の動きを反映するとともに、競争力強化を目指す「新成長戦略」を後押しする狙いもある。
事前相談制度を廃止して法定手続きに一本化する。合併審査では現行の運用指針(ガイドライン)を一部改正して、世界市場での占有率(シェア)の具体例を明示する−などが見直し案の柱。七月から実施する方針だ。
事前相談制度は二〇〇二年に導入されたが、提出する資料が膨大だったり審査が長期にわたるなど企業側の不満が強かった。
また合併審査の運用指針は〇七年の見直しで国内シェアだけでなく海外も考慮することが明記されていた。今回はさらに具体的な事例を明示して企業側の理解を深め、行動を促すことになった。
一連の措置は米国や欧州連合(EU)の独占禁止当局と足並みをそろえることも目的である。
公取委は合併申請が提出されれば直ちに法定手続きに入る。しかしスピード感をもって対処しなければタイミングを失してしまう恐れがある。まずは新日鉄−住金の合併が試金石となろう。
同時に、国民や中小企業者に打撃を与える“悪い合併”を許してはならない。英国・オーストラリア系の大手資源二社が鉄鉱石生産で合弁事業を計画したが、日欧などの当局は公正競争に悪影響を及ぼすと指摘。その結果、合弁事業は断念に追い込まれた。
経済憲法と呼ばれる独占禁止法は公正で自由な競争を促進し、消費者の利益確保と国民経済の発展をはかることが目的だ。「市場の番人」である公取委は、国民本位の視点を貫くことが大切だ。
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