前原誠司外相が辞任した。法で禁じる外国人からの献金受領での引責だが、問われるべきは政争に明け暮れて成果を出せない政治の機能不全そのものだ。
菅直人首相の参院予算委員会での答弁によると、首相は前原氏を「ミスか不注意はあったかもしれないが、このことで辞めることは必要ないのではないか」と慰留したが、辞意は覆せなかった。
民主党内有力グループを率いる前原氏が閣外に去ることで首相の政権基盤弱体化は避けられない。任命権者の首相が外相辞任を止められなかったことも、首相の求心力のなさを印象づけている。
◆求心力を欠く首相
前原氏は首相に辞任の意向を伝えた後の記者会見で「金額の多寡にかかわらず、外国人から献金を受けていたことは重い。政治資金の管理責任は私自身にあり、政治家としてのけじめをつける」と、辞任理由を語った。
前原氏の説明によると、前原氏の関係政治団体は二〇〇五〜〇八年と一〇年、京都市の在日韓国人の女性から年五万、計二十五万円の個人献金を受け取っていた。
政治資金規正法は、外国人や外国法人からの寄付を禁じている。日本の政治が外国勢力に影響されることを防ぐためだ。
「認識はなかった」とはいえ、外交責任者の外相が外国の影響を受けていると疑われるようなことはあってはならない。外相として辞任は当然の判断にも見える。
ただ、十四日からはパリでの主要八カ国(G8)外相会合、十九日からは前原氏の地元・京都市での日中韓外相会談が控えている。
重要な外交日程を放棄しての辞任の背景に、弱体化著しい菅内閣を見切ると同時に、政治資金をめぐるさらなる追及を逃れ、首相候補の体面を守ろうという発想があるのなら、あまりにも内向きだ。
◆ねじれの困難続く
一方で、参院で多数を占める野党が問責決議案提出をちらつかせ、閣僚に次々と辞任を迫る「ねじれ国会」のありようには、納得がいかない。
野党側は前原氏に続き、主婦の年金救済策問題で答弁が二転三転している細川律夫厚生労働相に追及の照準を合わせる。行き着く先は首相の問責決議案提出だろう。
統治能力を欠く菅内閣が続く限り、政治の停滞が続くという野党側の主張も分からなくもない。衆院解散や内閣総辞職が混迷する政治を打開する唯一の道であり、そのための政権攻撃なのだ、と。
しかし、菅首相が辞めて誰が後継になっても、仮に総選挙になってどの党が過半数を制しても、大規模な政党再編でもない限り、衆参ねじれ状態は脱せないところに今の日本政治の難しさがある。
政権にしがみつく与党と、政権攻撃に血道を上げる野党。政治的内戦が続けば、赤字国債を発行する特例公債法案など一一年度予算関連法案は成立せず、四十兆円の歳入欠陥となる。当面はしのげても、いずれは予算執行が行き詰まる。打撃を受けるのは国民だ。
ならば、与野党がともに今の政治状況を冷静に見つめ、政策実現に向けて協力することが、選良として歩むべき道なのではないか。
この八方ふさがりを抜け出す責任は、一義的には政権与党側にあるが、野党側も与党任せを決め込んでいては、国会議員としての役割を果たしたことにはなるまい。
前原氏の外相辞任はもう一つ、見過ごせない問題を提起した。
それは、外国人や外国法人からの政治献金は禁止される一方、〇六年の法改正で、五年以上継続して上場している日本企業であれば、外国資本の出資比率が50%を超えていても企業による政治献金が認められたことだ。
今回問題となった個人献金よりも、企業献金の上限額は大きい。
年五万円の個人献金で外国勢力の影響を受ける恐れがあるというのなら、外資比率の高い日本企業による献金で、政治が知らず知らずのうちに外国の影響を受ける危険性も排除できない。
この矛盾の解消には、民主党などが掲げる企業・団体献金の全面禁止を実現するしかあるまい。自民党も前原氏の献金問題を追及するなら、せめて外資比率の高い企業からの政治献金を返上するくらいのことをしてはどうか。
インターネットを通じた個人の政治献金も増えている。国籍の申告はあるが、厳密に確認することは難しい。今回の問題をきっかけに外国人や外資系企業の献金について議論を深めるべきだ。
◆外交空白つくるな
前原氏は会見で「外交空白が起きるよりも早くけじめをつける方が、菅政権のためでなく、国民にプラスになる」とも語った。
首相は早急に後任を決め、外交の空白を避けねばならない。外相交代の影響を最小限に抑え、外交を立て直すことは首相の責務だ。
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