五日開幕した全国人民代表大会で温家宝首相が行った政府活動報告は格差や物価高に社会の不満が高まる現状を率直に認めた。しかし、民衆の意見を政治に反映させる改革への決意は影を潜めた。
「一体、何が起きているんだ」。中国の友人から自国の状況を問い合わせる息せき切った電話やメールを相次いで受けた。中国では中東のジャスミン革命に刺激され、二月中旬から毎週日曜に民主化要求のデモをやろうという呼び掛けがインターネットで流された。
大量の公安職員が出動しデモを封じ込めているが、取材に集まった外国人記者とのトラブルになって、やじ馬が集まり、各地の繁華街で騒ぎが起きている。中国では事実や原因が報道されず、口コミで知った人々が疑心暗鬼になって海外に情報を求めている。
中国当局が過剰な反応を起こすのは、中東の政変を招いた極端な格差や物価高、独裁政権の腐敗がひとごとではないからだ。
先進国の金融緩和であふれた資金が原油や食料市場に流れ込み価格を高騰させた。人民元が割安な中国では海外からの投機資金で不動産バブルが再燃している。
民衆は食料品が去年に比べ二けたも値上がりし苦しんでいるが、金持ちは不動産高騰で財布のひもが緩み高額商品を買いあさる。
しかも、その多くは不動産投機をカネのなる木にしている国有大企業や地方政府を牛耳る共産党幹部たち。インターネットには彼らへの怨嗟(えんさ)の声があふれている。
「一部の大衆の反応が強烈な問題は根本的に解決していない」
温首相も政府活動報告で率直に認め具体例を挙げた。教育、医療、物価上昇、不動産高騰、地上げ、食品安全、幹部の腐敗。いずれも対応を誤れば社会矛盾の爆発につながりかねない地雷原だ。それらに政府はどう取り組むのか。
昨年の全人代で温首相は「政治体制改革なくして経済改革の成功はありえない」として「選挙権、知る権利、政策決定に参与、意見表明、監督する権利」の拡充をうたった。ところが、今年は「政治体制改革を積極的かつ穏やかに進める」と弱気だ。
「物価安定」を任務の第一とし「社会管理の強化」を訴え、経済運営の難しさや深刻な社会問題にたじろぐ政権の姿勢を表した。
経済発展で社会の情報化が進展し、民衆の権利要求が高まる中で、中国共産党は今年も薄氷を踏むような政権運営を強いられる。
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