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【社説】

週のはじめに考える もっと素敵な日本に

2011年3月7日

 中国に国内総生産(GDP)で抜かれたことで日本人がいじけてはいませんか。脱工業化社会のモデル国家へ、もっと素敵(すてき)な日本探しをしませんか。

 JR山手線目白駅で全盲の男性が転落死した事故に関連して、スウェーデンに詳しい岡沢憲芙早大日欧研究機構長が、こんな見聞を話してくれました。同国南部のベクショーという地方都市を訪れたときのこと。盲人がハイテク装備に誘導されて歩く「電波の通路」が整備されていたそうです。それは日本の技術で開発されたものだとか。秋田県立大でも「スマート電子白杖(はくじょう)」が開発されました。

◆生活者優先の社会に

 超音波センサーで障害物などを察知する仕組みですが、こうした杖(つえ)が普及すれば先のような事故は防げる可能性が大きくなります。

 「ストックホルム駅近くの老人ホームでは一般人も食堂を利用できる。そのことで入居者のお年寄りも身なりを整えて元気に、という配慮がある」「病院は入院者にどんな私物も持ち込みを許すがベッドだけは認めない。病院のベッドはヘルパーが疲れない設計になっている」。いずれも生活者優先のスウェーデンらしい話ですが、GDP主義に代わるポスト工業化社会の一端が垣間見えます。

 東京にあるドイツ日本研究所は二〇〇五年から日本における「人口動態の変化」と「幸福度」を中心に先進国の未来を模索しています。滞日約二十年のドイツ人学者、フロリアン・クルマス所長は「簡単に答えは出ませんが」と前置きして二つの研究結果の概要を説明してくれました。まずは人口問題。研究では「日本は世界最高の平均年齢と寿命を誇ると同時に、出生率が一・五以下と極めて低い。その結果生じる『人口の時限爆弾』は日本が直面する最大の問題」と指摘しています。

◆「幸福度」高い公務員

 クルマス氏は「この点ではスウェーデンに学びたい。一般的に働く女性が増えると出生率も下がるといわれるが、同国では女性の就業率も増やし出生率も高めた」といいます。確かにスウェーデンでは〇四年以降、出生率は増加に転じ、〇九年時点で一・八八と目標の二・一に近づいています。ただ全労働者の半分が女性である一方、全労働市場の約35%は公共部門ですから、スウェーデン・モデルを即座に日本に導入するわけにはいきません。同所長は「父親が育児休暇を取ると話題になる日本の風潮は改めなくては。社会全体で改革に取り組むべきです」と主張します。待機児童解消策をはじめ女性就業率を高める施策が「人口の時限爆弾」暴発を食い止めるには不可欠というわけです。

 もう一つは「幸福感」。ドイツ研では「日本社会における幸福」について「過去に『幸せ』とみなされてきた生き方が現在の日本で完全に意味を失ったわけではないが、社会が不安定化、多様化する中で変わりつつある」と分析。クルマス氏は「日本は豊かになって幸福をお金で買える時代ではなくなった」と見ています。

 ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマン米プリンストン大教授らの研究によると、米国では収入増で幸福感は高まっても年収七万五千ドル(約六百二十万円)で頭打ちになるとのことです。

 フランスのサルコジ大統領、英国のキャメロン首相は「幸福度」を重視した「国のかたち」づくりを提言しています。遅まきながら菅内閣も幸福度に関する研究会を発足させました。内閣府の国民生活選好度調査では日本人の幸福度は十点満点で平均六・五。三十代をピークに高齢になるほど幸福度が低下。職業別では公務員(七・三)の幸福度が最も高く、ついで管理職の会社員、専業主婦の順。幸福は健康、家族、家計の三つに左右されるとし、政府への注文では「安心できる年金制度」「安心して子どもを産み育てることができる社会」の二点が各七割近くに達しています。

 日本が誇る技術力の高さと優れたソフトを組み合わせて「活力ある福祉社会」の設計図をつくり、戦後復興を成し遂げたあの国民的エネルギーで努力すれば脱工業化社会のモデル国家になることは、決して夢物語ではありません。スウェーデンの成功について岡沢教授は「二百年近く戦争をしない政府への信頼を生かして一九四七年に平等、公平実現のための国民総背番号制を採用し、経済が高度成長した六〇年に間接税(現在25%)を導入した」と解説します。

◆急げ政治の信頼回復

 菅内閣の体たらくなども影響して残念ながら現在の日本には「政府への信頼」も「高度成長」もありません。気が重いことですが、私たちはまず深刻な政治不信、デフレ不況を打開することから始めなければなりません。

 

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