橋下徹・大阪府知事が、すでに本体工事にかかっていた槙尾川ダムの建設中止の方針を表明した。単純に「ダムに頼らない治水」の先駆けとみるわけにはいかない。
明治以降の日本は、最新の技術で河川にダムを築き、洪水調節や水資源確保を主流としたが、近年はマイナス面が指摘され、ダムによらない治水の主張も強い。
政権交代後、国直轄、道府県施工の補助事業ともダム再検証が進められているが、本体工事に入った直轄、補助事業など四十六ダムは検証の対象外である。橋下知事は、本体工事着工済みダムの中止に踏み込んだ。
槙尾川ダム(大阪府和泉市)は補助事業で同府が施工する。貯水容量百四十万立方メートルの治水専用重力式ダムで、八ッ場ダム(群馬県長野原町、総貯水容量一億七百五十万立方メートル)、設楽ダム(愛知県設楽町、同九千八百万立方メートル)に比べて、桁違いに小規模だ。
本体工事といっても、口径一・八メートルの管二本で川の流れを導く転流工と、ダムサイト予定地両岸の一部樹木伐採や掘削などに限り、仮締め切りもしていない。
府は、三十年に一度と予想される時間雨量六五ミリの出水に耐える河川整備をと、治水目標も見直した。その上で、専門家による府河川整備委員会が、ダムを含む対策とダムに頼らず堤防強化や河道掘削による治水の両案を検討したが、結論を出せなかった。
ダム完成は二〇一五年の予定だったが、中止すれば河川改修の用地買収など新たに必要となり、工期のめどは立っていない。地元にはダム待望の声が強い。
ダム中止は結局、橋下知事の決断である。規模の小さい槙尾川ダムは、本体工事も後戻りできない段階ではない。今なら簡単な防災対策で中止できる。だが他の事例に当てはめるのは疑問が残る。
大規模ダムはいったん本体工事に入ったら中断せず、昼夜兼行でも早期完成を目指すのが常識だ。
転流工が終わり、本流を仮締め切りし、重力式ダムならコンクリート打ちを始めたり、土砂や岩石を積み上げるフィル式やロックフィル式なら、完成前に上流で出水があれば、大災害を招く。
本体工事に入ったダムの中断は慎重に、現場の地形、工事の進み具合など条件を検討し判断すべきである。そのためにも本体工事に入る前に、建設を続行するか、計画を中止すべきか、念には念を入れた再検証を望みたい。
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