中国の春秋戦国時代、秦の王が斉(せい)の襄王の妃(きさき)に「連環の玉」を贈った。知恵の輪のようなものだったのか、「斉には知恵者が多い。これが解けますか」と伝えた▼妃は、周囲の者に聞いてみたが、誰にも解き方が分からない。結局、妃は槌(つち)を取り出し、これを打ち壊して秦の使者に言った。「謹んで解かせていただきました」。<解環>の故事である▼誰にも解けない<ゴルディウスの結び目>を、ならば、とアレキサンダー大王が一刀両断にした話にも似通う。ともに凡人の思いもよらぬ発想といえばいえるが、難問と格闘するプロセスをすっ飛ばし、短兵急に結果を求めた乱暴な行為とも思える▼彼も「合格」の結果を出したいあまり、問題と向き合う面倒な過程を省いてしまったのか。大学入試問題が、試験時間中にインターネットの質問サイトに投稿された件で、仙台市の予備校生が逮捕された▼確かに、思いもよらぬ手法だが、こんな“解環”は、ほかの受験生への裏切りだ。カンニングで逮捕とは、大仰な気もするが、無論、大いに反省してもらわなくては困る▼昨今、大学では、学生がネット上の他人の文章を切り張りする、いわゆる「コピペ」で論文を仕立てることも問題になっていると聞く。面倒な過程を省き、一足飛びに結果を求める−。便利なネットが、一方で、そんな風潮も育てているのだろうか。