松沢成文神奈川県知事が東京都知事選への出馬を表明した。民主、自民の二大政党はいまだに候補者を擁立できない。さまざまな立場の政党、候補者の参戦が有権者の政策選択の幅を広げる。
松沢氏は記者会見で「首都圏から日本を変えたい」と出馬の理由を述べたが、東京都政が抱える諸問題をどうさばくのか具体的な発言は乏しかった。
例えば、石原慎太郎都知事と都議会民主党が対立している築地市場の移転問題について「今度の都議会の結論を踏まえてもう一度検討したい」とはっきりしなかった。
立候補を表明している前共産党参院議員の小池晃氏は移転反対の立場だが、外食大手ワタミ創業者の渡辺美樹氏は「情報を整えてから一カ月で判断できる」と曖昧だ。出馬が取り沙汰される東国原英夫前宮崎県知事は都政についての発言は少ない。有権者が知りたいのは具体的な将来ビジョンだ。
神奈川から松沢氏を担ぎ出したのは、石原氏の有力支援者らとされる。都知事選に出馬しない意向と伝えられる石原氏の事実上の後継者と指摘する向きもある。
松沢氏は無党派を自任しており、自民党や公明党に加え、民主党との連携を模索しているとの話があるという。既成政党の相乗り候補になる恐れすらある。
自民党は依然として石原氏に四度目の出馬を求め、ほかに候補者選びを進めている気配はない。民主党は自前の候補者を立てるようだが、名前の挙がる蓮舫行政刷新相は前向きではない。二十四日の告示まであと三週間と迫ったのにどういうことか。このままでは有権者の政策の選択肢があまりに狭められる。
愛知県知事選や名古屋市長選では、民主党、自民党ともにそれぞれの推した候補者が敗れた。既成政党に愛想を尽かした有権者が増えている証左だろう。だが既成政党離れを恐れ、都知事選の候補者擁立に及び腰だとすれば、自らの存在意義が失われかねない。
まして一人の候補者に相乗りして政策論争を敬遠することになれば、既成政党への不信は募る一方だ。民主、自民の二大政党の候補者も参戦し、過去十二年の石原都政を踏まえ、それぞれの東京の前途を示してもらいたい。
二〇〇九年の都議選では、国政での政権交代に先駆ける形で民主党が第一党に躍進した。都知事選で二大政党が対峙(たいじ)できないようではその歴史的意味さえ問われる。
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