二〇一一年度予算案が衆院を通過し、年度内成立が確定した。しかし、予算関連法案は成立のめどが立っていない。与野党が党利党略を優先させ、国民生活に影響が出るような事態は許されない。
菅直人首相は予算案通過に「本当に良かった。うれしい思いでいっぱいだ」と安堵(あんど)してみせたが、ぬか喜びとはこのことだろう。
与党が参院で過半数に達しない「ねじれ国会」では、予算は成立しても、予算関連法案は野党の協力が得られなければ成立しない。
予算案への賛成は二百九十五票で、関連法案を衆院で再可決させるために必要な三分の二(三百十八議席)には達しなかった。
〇九年衆院選マニフェストからの逸脱や、小沢一郎元民主党代表の党員資格停止処分に反発して民主党会派からの離脱を表明した十六議員が欠席したからだ。
民主党が分裂の様相を見せ、公明、社民両党の協力が得られない状況では、関連法案を成立させることはできない。
関連法案には赤字国債を発行する特例公債法案も含まれ、成立しなければ四十兆円の歳入欠陥となる。当面はしのげても、いずれ予算執行は行き詰まり、市場は混乱する。打撃を受けるのは国民だ。
民主党政権は関連法案を分離して予算案だけを衆院通過させた。近年では異例の対応だ。
野党側の軟化を待つ戦術なのだろうが、首相や民主党執行部が野党説得に死力を尽くした跡は見られない。賛成を得る確たる見通しがない中での分離処理は、単なる時間稼ぎにすぎない。
予算案審議は八十時間を超え、審議時間は十分なはずだが、議論は政権の正統性や首相の政権担当能力に集まり、政権側の言い訳と野党側の政権攻撃に終始した。
接点を見つける努力を怠り、不毛な対立を繰り返す与野党に、国民の政治不信は募るばかりだ。
自民党は予算案組み替え動議を提出して否決された。子ども手当や農家戸別所得補償など民主党の目玉政策を撤回し、公共事業を上積みするなど、菅内閣には受け入れがたいかもしれない。
最善ではないだろうが、歳入欠陥による混乱よりはましだ。この際、与野党が胸襟を開いて、予算案と関連法案の本格的な修正協議に入るべきではないのか。
それすらできない首相なら潔く身を引くべきであり、国会が立法機能を果たせないのなら、国民に信を問うべきである。
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