HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 18063 Content-Type: text/html ETag: "8da7d3-468f-f8901c40" Cache-Control: max-age=5 Expires: Wed, 02 Mar 2011 01:22:14 GMT Date: Wed, 02 Mar 2011 01:22:09 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年3月2日(水)付

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 「なんでも知っている馬鹿もいる」の寸言は作家の内田百ケン(ケンは門がまえに月)だったと記憶する。モノばかり知っていても仕方ないさ――と空っぽの我が頭をかばうのに重宝してきた。その百ケン先生に慰めてもらいたくなるニュースが、先ごろ米国から届いた▼IBMのスーパーコンピューター「ワトソン」が、クイズの王者2人に圧勝したそうだ。本100万冊分の知識を詰め込み、質問を理解し、人に負けない速さでボタンを押す。なーんだそれぐらい、と思ってはいけないらしい▼スパコンは14年前にチェスの世界王者を負かしている。今回はずっと偉業なのだという。「計算ずく」で指せるチェスに比べて、あいまいさを含む問いを解し、記憶の海から正答を拾い出すのははるかに難しい。つまり機械がいっそう人知に近づいたことになる▼機械の勝利を機に、米メディアは人工知能の話題で大騒ぎらしい。かつて記事にしたマサチューセッツ工科大の教授を思い出す。人の「心」を持つ人工知能を研究し、「人間を超えるものを!」をスローガンにしていた▼ワトソンは毎秒80兆回の計算をする。目もくらむ能力に「心」が結びつくとき、一体何が起きるのだろう。百ケンさんの師、夏目漱石が古く「人間の不安は科学の発展から来る」と書いたのは、さすがの洞察と言うべきか▼「進んで止(とど)まる事を知らない科学は、かつて我々に止まる事を許して呉(く)れた事がない」と漱石の筆は続く。今世紀半ばには人工知能が人に代わって知的労働をこなす予測もある。面白さの後を、怖さがついてくる。

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