国勢調査で一票の格差が深刻化していることが分かった。昨年の参院選挙の訴訟では「違憲」や「違憲状態」という判決が目立つ。司法の厳格な判断に、政治の側も抜本的な制度改革を急ぐべきだ。
参院では神奈川県と鳥取県で、一票の格差は実に五・一三倍もの開きがある。衆院では千葉4区と高知3区と比べると、二・五二倍の差になる。先月末に公表された昨年の国勢調査の結果である。
衆院で格差が二倍を超える選挙区は、二〇〇〇年調査では九選挙区にすぎなかったのに、〇五年では四十八選挙区に広がり、昨年の調査では九十七選挙区にまで大幅に増加した。
見逃すことはできない。格差が二・三倍だった一昨年の衆院選では、各高裁で起こされた九件の訴訟で「違憲」判決が、四件あったからだ。著しい不平等状態だが、制度見直しには長い時間がかかる点を考慮して、違憲とまでは言えないとする「違憲状態」判決も三件、出ている。
五倍の格差があった昨年の参院選をめぐる訴訟では、合憲判決もあったが、東京や高松、福岡の各高裁では「違憲」と断じた。他の高裁や高裁支部でも「違憲状態」とする判決が続いた。司法が厳格な姿勢を示している証左だろう。
参院の格差の原因は、都道府県単位で選挙区をつくっているからだ。福岡高裁はこの点を「憲法上の要請でない都道府県単位の選挙区を維持するために、憲法上の要請である投票価値の可能な限りでの平等の実現を妨げることになっている」と明快に述べた。
衆院では小選挙区の三百議席のうち、まず都道府県に一議席を与え、残りを人口比例で配分する「一人別枠方式」が問題視された。過疎地に配慮した方法だが、格差拡大の根源でもある。
国勢調査結果に基づき、小選挙区の区割りを十年ぶりに見直す作業に入る。「一人別枠方式」の撤廃は必至といえよう。
五倍ラインを突破した参院はもっと深刻だ。西岡武夫参院議長が全国を九ブロックに分ける改革案を提示した一方、人口の少ない県の選挙区を統合する合区案なども浮上している。だが、議員の利害が絡み合って、制度改革の合意には難航が予想される。
国会は司法の警告を真摯(しんし)に受け止め、「可能な限りの平等」を意識した抜本的な是正策を急ぐべきだ。有権者の一票が政権交代をもたらす時代は、一票の重みも格段に増している。
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