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天声人語

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2011年3月1日(火)付

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 明治から昭和初めの法学者で東大などの教授だった岡田朝太郎は、岡田三面子(さんめんし)の名で川柳を詠んでいた。いつの時代の学舎(まなびや)にも不心得者はいたようで、こんな一句を残している。〈良心の唇青しカンニング〉。説明不要のストレートパンチである▼京都大学の入試問題の一部が試験中にインターネットに流れた件は、偽計業務妨害にあたる可能性もあるという。そうなれば犯罪だ。不心得者は顔を青くしていようか。刑法学の権威で執行猶予制度を創案したという三面子も、さぞ天上で嘆いているに違いない▼まじめに勉強してきた者が、「いま一歩」のために道を誤ったとは思いづらい。愉快犯か、「あわよくば」のバクチ型受験か。いずれにせよ、やることの卑小と及ぼす影響の大きさのアンバランスが、ネット時代を象徴する▼同志社や立教、早稲田でも同様の不正が見つかっている。まんまと合格したのだろうか。だが他人はだませても、自分をごまかす狡(ずる)さにたけた若者などそうはいまい。心に負い目を宿しての大学生活が、充実するとも思えない▼カンニング捜査で思い出すが、かの名探偵シャーロック・ホームズにも、試験問題を盗み見た「犯人」を捜す一話があった。快刀乱麻を断つ推理で謎を解きつつ、根はまじめな学生の前途を思い人情味あふれる解決をもたらす▼ホームズは諭す。「一度は低いところへ君は落ちた。将来どんな高いところへ君が昇るか、楽しみにしていよう」(阿部知二訳)。同じ言葉をかけるに値する人物なら、自ら名乗り出るはずである。

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