小学校三年生のテストの時間だった。隣の席の子の答案用紙をのぞいていたら、若い女性の担任の先生と目が合った。悲しげな顔を見たとき、やってはいけないことなんだ、と子ども心に刻まれた▼千三百年続いた「科挙」の歴史がある中国で、百年前に使われたカンニング用の豆本が見つかっている。針の頭ほどの約八万字が六十八ページ分書き込まれていた。虫眼鏡がなければ読めないような本をつくる執念には圧倒される▼一度もカンニングをしたことがない、と言い切れる清廉潔白な人ばかりではないと思うが、京都大学で発覚した入試問題の流出は、善意の第三者を利用した意味でも許し難い不正だ▼試験時間中に、インターネットの掲示板に「塾で出された」と装って試験問題が投稿されていた。回答者は本物の入試問題とは夢にも思わなかっただろう。早稲田大などでも同じ手口の不正があったようだ。受験生たちの憤りは当然だ▼韓国では二〇〇四年、日本の大学入試センター試験に相当する試験で、携帯メールを使って解答を送信した組織的なカンニングが発覚。いずれ日本でも、と予想されていた▼カンニングはcunning(ずる賢い)を語源とする和製英語。ずる賢く大学の門をくぐっても、明るい未来があるとは思えない。実行者は特定されるだろう。自ら大学側に名乗り出て、謝罪したほうがいい。