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天声人語

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2011年2月25日(金)付

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 激しい言動ゆえに「中東の狂犬」と呼ばれたリビアの最高指導者カダフィ大佐が、「狂」の度合いを増している。丸腰の民衆に銃撃を浴びせ、無差別に空爆し、デモ参加者を「ドブネズミ以上の存在ではない」と言い放ってはばからない▼弾圧による死者が千人にのぼる情報もある。「人道への罪」は明らかだ。結局、この人にとって国民と国土は、自己実現の道具以上ではなかったのだろう。正体見たりと思ったか、体制崩壊を見越しての保身か、側近の離反も相次ぐ▼カダフィ氏は少年時代にアラブの大義に目覚めたという。27歳でクーデターを主導し、40年余にわたって独裁的権力を振るってきた。憲法も議会も選挙もない。さらに自身の公的な肩書もなく支配が続く国は、世界地図上の不可思議である▼権力を握って数年後、当時の小欄がカダフィ氏の思想を、「この世のものならぬ純粋さを感じさせる」と書いている。自らの「理想」に憑(つ)かれて突き進む危うさも、その筆はにおわせている。両刃の剣は凶と出たことになる▼デモの拡大に政権を返上したエジプトのムバラク氏は、現実主義者だろう。カダフィ氏はロマン主義と言うべきか、「最後の血の一滴まで戦う」「殉教者になる」と引かない。独裁者の情念と陶酔がさらに民衆を巻き込む悲劇が、今は怖い▼独裁者はいつも最後の10分までは良く見える、と言ったのは誰だったか。カダフィ氏はすでにその10分を切り、民意は雪崩をうって離れつつある。血のにおいではなくジャスミンの香りに、時代を譲るときだ。

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