出る人のない携帯電話の呼び出し音は、どんなに無情に響くことか。<どうか生きていて…>。張り裂けそうな家族の気持ちを察すると、胸がふさがれる▼ニュージーランド南島のクライストチャーチ市で起きた大地震は、まだ多くの被災者の安否が不明のままだ。死者は少なくとも七十五人、行方不明者は三百人を超えた▼日本人の被災者も多かった。富山市の外国語専門学校の学生が学んでいた六階建てのビルは完全に倒壊。瓦礫(がれき)の下に学生がまだ残っている。暗闇の中、救出を待つ息遣いを想像する。一刻も早く救援の手が届くことを祈るしかない▼同じ直下型だった十六年前の阪神大震災で、発生から七十時間ぶりに救出された七十八歳のおばあさんを取材したことを思い出す。全壊した木造アパートの一階に閉じ込められ、近くの婦人が名前を呼ぶと、瓦礫の中からかすかな返事があった▼近所の男性たちに引きずり出してもらった。偶然、まくら元にあった食パンやミカンを少しずつかじって命をつないだおばあさんは、病院で注射を一本打ってもらっただけで、とても元気だった▼クライストチャーチの地震は、この朝で発生から四十八時間になる。専門学校の学生がいたビルには、新たな生存者がいる望みは薄い、という地元警察当局の厳しい見方も伝わる。救える命はある。そう信じて救援を見守りたい。