「私という人間の持つ体質が悲劇を生んでいるというのは、私自身顧みて罪万死に値する」。かつて国会の証人喚問で、金庫番だった秘書の自殺などを問われた竹下登元首相は自らをそう断罪した▼政権誕生に暴力団が関与した皇民党事件や平和相銀事件での金屏風(きんびょうぶ)疑惑など底知れぬ闇を抱えた元首相が「万死に値する」と語るのを聞くと、カネの力で首相になった政治家の業を思わずにいられなかった▼こちらの首相経験者は沖縄の地元紙から「万死に値する大罪」と憤怒を突きつけられた。米軍普天間飛行場の県外移設を断念した理由とした米海兵隊の抑止力を「方便だった」と明かした鳩山由紀夫前首相だ▼「政治音痴の素人政治家が国を動かし、国民を翻弄(ほんろう)し、政治不信を高める」と琉球新報が社説で憤るのも無理はない。ふわふわと飛んでしまいそうな言葉の軽さには声を失ってしまう▼名護市辺野古への移設を再確認した日米合意の土台は大きく揺らいだ。それなのに、国会での議論が鳩山さんの「失言」と矮小(わいしょう)化されているのは言論の府の役割の放棄ではないか▼沖縄返還に関する外交文書ファイルが先日、公開された。交渉が始まったときから具体的な検証もないまま、抑止力への期待が外務官僚に根を下ろしていることが分かる。国会議論に今、求められているのは、抑止力の虚実を正面から問うことだ。