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民主化を求める丸腰のデモ隊に軍や治安部隊が銃撃する。世界中どこの国であろうと、許されないことだ。民衆の死傷者が増えている。国家による国民の虐殺である。中東のバーレーン、[記事全文]
八百長問題で屋台骨が大きく揺らぐ日本相撲協会が、組織改革へ向けた提言を受けた。外部有識者による「ガバナンス(組織統治)の整備に関する独立委員会」が協会に出した。その答申[記事全文]
民主化を求める丸腰のデモ隊に軍や治安部隊が銃撃する。世界中どこの国であろうと、許されないことだ。
民衆の死傷者が増えている。国家による国民の虐殺である。中東のバーレーン、リビア、イエメンで起きている流血を見すごすことはできない。
国連安全保障理事会は、国民の平和的な抗議への武力行使を非難して、早急な対策をとるべきだ。
3カ国のデモはチュニジアの政変をきっかけに始まった。エジプトのムバラク体制崩壊でさらに弾みがついた。
体制と国情はそれぞれ異なる。バーレーンはペルシャ湾の島国でイスラム教スンニ派の王族による王制だが、国民の7割を占めるシーア派が、社会整備や就職などで差別があるとして政治改革を求めている。ハマド国王が10年前に民主化に動いたが、中途半端なまま終わっていた。
イエメンは選挙による大統領制なのだが、サレハ大統領が30年以上権力の座にある。最貧国で部族間の対立もあり、さらに国際テロ組織アルカイダの拠点があるなど問題を抱える。
リビアは「人民主権の直接民主主義」を掲げる独自の体制だが、議会も選挙もない。1960年代に王制打倒クーデターを主導したカダフィ氏が、40年以上支配する。政府批判は許されず、政治犯に対する拷問など人権侵害はこれまでも指摘されてきた。
いずれも国民の間に募っていた政治や権力者に対する不満が、中東民主化の流れの中で噴き出したものだ。
それにしても、それぞれの政府側の事態を見る認識の何と低いことか。
各政府は国民の民主化要求を真剣にとらえず、逆に治安部隊や軍を出動させて蹴散らそうとした。それがさらに国民の怒りの火に油を注いだ。バーレーンでは当初、デモ隊は「改革」を求めていたが、軍の銃撃の後は「王制打倒」を叫ぶようになっている。
中東ではこれまで強権体制がいたるところにあり、米欧も日本も、地域の安定と、アルカイダなどのイスラム過激派との戦いをそれらの政府に依存してきた。一方で、過激派対策としながら政府批判勢力を弾圧していることには目をつぶってきた。
しかし、チュニジアとエジプトで、民衆が権力者を追い出して以来、中東全域で「強権を許さない」という空気が広がっている。民主化を求めるデモはほかの国々でも始まった。国際社会は中東に対する認識を変え、強権体制に厳しい対応をとる必要がある。
日本はこれら3国と関係が深い。
重要なのは政府との友好関係だけでなく、国民との信頼関係である。政府の非道を遺憾とし、流血が広がらないよう訴えなくてはならない。
立ち上がった中東の民衆は、日本の対応を見ている。
八百長問題で屋台骨が大きく揺らぐ日本相撲協会が、組織改革へ向けた提言を受けた。
外部有識者による「ガバナンス(組織統治)の整備に関する独立委員会」が協会に出した。その答申は、これまで角界が「常識」としてきたことを覆すものばかりだ。
現在12人いる理事は力士出身が10人を占めるが、約半数を学識経験者など外部から登用する。部屋数は50から30程度に削減した上で、協会組織の一部とし、運営を師匠に委託する契約を結ぶ。時に億単位で売買される年寄名跡は金銭授受を伴う譲渡を禁じる――。
独立委は昨夏、野球賭博問題を受けて発足した。委員会は、協会が目指す新公益法人への移行に向けて、これだけは満たしておかねば公益認定は難しい、という点に切り込んだ。
求めたのは、不祥事の連鎖を生んできた角界の閉鎖的な構造の変革と、協会の機能強化だ。
協会が伝統芸能とスポーツの要素を兼ね備える「国技」として大相撲を存続させたいなら、7カ月に及ぶ議論の末にまとめられた改革案は、どれも急いで検討すべき課題ばかりだ。
だが、放駒理事長の腰は重い。
「いま起こっていることを片づけてから」と、八百長問題の解明を優先する考えを示した。公益法人への移行を検討する内部委員会の作業は、問題発覚後に凍結したままだ。
土俵の根幹を揺るがす八百長禍に不退転の決意で臨む思いは理解できる。だが、ほかのことは後でいいとは思えない。
答申は現在の協会が「任務を行うのにふさわしい組織かどうか疑問」と断じた。そこまで言われて、聞かぬふりのような先送りでいいのか。
独立委の奥島孝康座長は「八百長問題は協会の体質が生み出したもの。改革を進めれば問題は起きない」と言い、組織強化こそが根本的対策だと位置づけて、早急な対応を求めている。
力士らに直接関わる部屋制度などの問題は、協会員が率先して話し合っていけるはずだ。
年寄名跡の扱いなど「既得権益」を守りたい思いで改革に後ろ向きな親方がまだいるようだが、いつまで内向きの論理にしがみつくのだろうか。
力士暴行死事件などの不祥事が起きるたび、協会は「部屋と師匠の問題」として組織的な対応を怠ってきた。
答申は、厳しく疑問を投げかけている。八百長問題の事後処理に忙殺されるあまり、最も重要な組織改革を後回しにしている。過去の不祥事からいったい何を学んできたのか――と。
このまま先送りが続けば、今でも相撲を楽しみにしてくれているファンが今度こそ離れて行くかも知れない。
改革に水入りはない。