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2月19日付 編集手帳

 夏目漱石の『それから』にある。〈いつかの展覧会に青木と()ふ人が海の底に立つてゐる背の高い女を()いた。代助は多くの出品のうちで、あれ(だけ)()い気持に出来てゐると思つた〉◆1907年(明治40年)にひらかれた東京府勧業博覧会である。「青木と云ふ人」とは洋画家の青木繁であり、主人公(代助)の心をとらえた――すなわち漱石自身が感銘を受けた絵とは、『海の幸』と並ぶ代表作『わだつみのいろこの宮』である◆その下絵を含む青木の未公開スケッチなど約60点を、愛知県岡崎市の美術愛好家が所蔵していることが分かった◆漱石には褒められたが、展覧会では3等に終わる。出久根達郎さんの『百貌(ひゃくぼう)百言』(文春新書)によれば、自信家の青木は審査に()みついたという。大御所と呼ばれる連中は〈法螺(ほら)達者にして技術拙劣…〉である、と◆激情の画家が一枚一枚に魂をこめただろうスケッチは、来月から石橋美術館(福岡県久留米市)で開催される没後100年記念の回顧展で公開される。あり余る才能を抱きながら、貧困と不遇のうちに28歳で早世した人である。まなざしも供養になる。

2011年2月19日01時31分  読売新聞)
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