菅直人首相が宣言した「平成の開国」。海外の需要取り込みが狙いだというが、米国主導の環太平洋連携協定(TPP)にこだわり過ぎていないか。アジアを軽んじては日本経済に元気は戻らない。
TPPは100%の関税撤廃を原則とする自由貿易協定(FTA)で二〇〇六年にシンガポールなど四カ国が締結した。米国、ベトナムなども参加表明し、今秋の妥結を目指し九カ国による拡大交渉が続いている。
日本のFTA網は大きく出遅れており、菅首相にも焦りがあったのだろう。米国主導にカジが切られたTPPに加わろうと、六月に参加の是非を判断すると表明した。
だが、日本の参加を強く求める経済人からさえ、「唐突感が否めない」との声が漏れてくる。
日本と韓国との交渉は中断し、日中韓も産官学の共同研究の域を出ず、日中は交渉の見通しすら立っていない。国内総生産が日本を抜いて世界二位に躍り出た中国をはじめ、今や世界経済の牽引(けんいん)役を担うアジアに積極的に身を乗り出さずして日本経済を復活できるのか。そんな戸惑いでもある。
成長の鈍化に苦しむ先進国の経済運営は、新興国の旺盛な需要に照準を合わせた景気浮揚に軸足を移し始めた。米国のTPP参加はその象徴であり、ゆくゆくは中国も加わるアジア太平洋自由貿易圏構想と合流し、広くアジア市場をこじ開ける戦略を描いている。
旅客機二百機など三兆円を超す対中輸出を決めた一月の米中首脳会談は、その一環というべきだ。
米中が接近し、隣国の日本が距離を置いて米国に走る姿は理解に苦しむ。いくら対米重視とはいえ、日本の貿易総額の半分以上をアジアが占めるのに、なぜ中国などとの交渉に後ずさりするのか。
尖閣諸島問題などでぎくしゃくする日中関係にたじろいでは、成長は取り込めない。首相は「日本の繁栄はアジア抜きに語れない」という自らの発言を忘れたのか。
オバマ米政権は輸出倍増、二百万人の雇用創出を掲げた。アジア重視はその実現のためであり、リーマン・ショックで金融立国が揺らいだがゆえの実物経済への大転換だ。
貿易立国を宣言した韓国のサムスン電子は、中国とのFTA交渉開始を視野に、千人に上る中国専門家の育成を急いでいる。
グローバル化が劇的に進む時代に全方位外交をためらっていては、「平成の開国」が危うくなることに菅首相は気づくべきだ。
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