愛知県新城市の養鶏場で新たに発生した鳥インフルエンザ。速やかに殺処分された一万七千余羽のうち約三千四百羽が、ブランド鶏の代表格、名古屋コーチンだった。“種の保存”は万全にしたい。
名古屋コーチンは明治初期、名古屋在来の地鶏に、中国のバフコーチン種を交配して生み出され、卵肉兼用種として改良された。現在は一般に、愛知県畜産総合センターの種鶏場(安城市)から供給された種鶏の系統に絞って、高いブランド力を守っている。
商標登録は、あえてしていない。だが、種鶏をもらえるのは、県からの指定を受けた民間五社の重点指導ふ化場と名古屋市農業センターだけ。そこで交配された実用鶏が、全国の生産農家に卸される。流通の各段階で、勝手に交配させない、譲渡しない、消費者の信頼を裏切らないなどの誓約書が交わされる。二〇〇九年度の出荷額は、全国で約十八億円。うち六割を愛知県が占めている。
鳥インフルエンザが発生した養鶏場は、実用ひな生産の六割を占める最大手。大半は今回の移動制限区域外で飼育されている。しかし、流通ルートが厳しく限定、管理されているだけに、長期的な影響がどう出るか、今回以上の有事の際に、コーチンブランドはどうなるかという不安は残る。
発生元は窓のある鶏舎だが、防鳥ネットと金網、カーテンで三重の防御体制をとり、人の出入りも厳しくチェックしてきたという。「あらゆる対策を打ったのに…」と養鶏家は嘆く。その通りに違いない。
隣接する豊橋市でも先月、鳥インフルエンザが発生し、約十五万羽の鶏が殺処分された。専門家の間では、感染源は別との見方が強い。渡り鳥だけでなくネズミのように地をはう生き物などがウイルスを運ぶとすれば、完璧な防御は難しい。発生後のリスクを軽減する対策も欠かせない。
〇七年の鳥インフルエンザ流行後、愛知県は一〇年度、名古屋コーチン系統保存対策として、県内の農業高校七校で、二十〜百羽の種鶏を分散飼育してもらうようにした。だが、最大手を襲った想定外の被害を受けて、現体制でブランドが守りきれるのかどうか、十分な検証が必要だろう。
コーチンの受難は、近年にわかに脚光を浴びる全国の有名地鶏、さらに、集中飼育、集中管理が主流になった養鶏業界全体にとっても、貴重な教訓になるはずだ。
この記事を印刷する