子どもの遊びでは、後出しじゃんけんは軽蔑されるが、政治の世界では高度な駆け引きとみられるらしい。告示まで一カ月余りに迫っているのに、石原慎太郎知事は進退を明らかにせず、政権与党の民主党も候補者を決められない。エアポケットの中のような妙な静けさだ▼韓国やノルウェーの国家予算に匹敵する財政規模を持つ「首都の顔」を三期も務めた石原さんだ。初当選の時ならともかく、現職として四選出馬の意思をすでに固めているのなら、いまさら後出しじゃんけんは格好悪い▼あえて出馬表明をせずに、自民党都連や業界団体から湧き上がる「待望論」に乗る戦術なのかもしれない。でも、進退を明らかにしないことが、候補者同士が政策論争を戦わせる貴重な時間を奪うことを忘れてほしくない▼築地市場の移転問題、東京五輪の招致、新銀行東京、財政、教育…。都政の課題をめぐって候補者に時間をかけて聞きたいことは山ほどあるのに、時間だけが過ぎていくのがもどかしい▼前共産党参院議員の小池晃さんに続き、外食大手「ワタミ」創業者の渡辺美樹さんがきのう、都知事選への立候補を表明した。石原知事が設立した新銀行東京の撤退を訴えるなど、ようやく争点が見えてきたことを歓迎する▼童心に帰って石原さんに言おう。「やっぱり、後出しじゃんけんはずるいよ。これで何回目なの?」