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2月16日付 編集手帳

 井上ひさしさんの長編小説『吉里吉里人』に風変わりな大学教授が登場する。腕時計には長針も短針もない。「時間を気にして、まともな研究はできない」と。それでも時は金なり、「急がねばならぬ」と秒針は残してある◆〈Festina lente〉(ゆっくり急げ)というラテン語の格言があるが、教授の腕時計もその流儀であったろう◆「急げ」の機敏さを追うあまり、「ゆっくり」の慎重さが欠けていなかったか――問われつづけた人である。日本初の心臓移植手術を執刀した札幌医科大名誉教授の和田寿郎氏が88歳で死去した◆移植された患者が死亡した後、「患者は移植を必要としていたのか」「脳死判定は適切に行われたのか」など“密室治療”に疑問が呈された。「(脳死判定が非常に甘かったのは)国内第1号の執刀者になりたいと思われたのか…」。同じ大学の元医師で作家の渡辺淳一さんが本紙に寄せた談話にも「ゆっくり」の欠落を思わずにいられない◆「和田移植」は国民の不信を買い、日本の移植医療は欧米に立ち遅れた。43年前に刻まれ、いまも教訓の()みつくせぬ刻印である。

2011年2月16日01時11分  読売新聞)
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