日豪経済連携協定(EPA)交渉が再開された。農業大国・豪州との貿易自由化は日本農業の土台を揺るがす。「平成の開国」を叫んでも、その備え、覚悟なくして交渉妥結の道は開けない。
統一地方選を目前に控え、農家の反発を招く農産品の市場開放には踏み込めない。菅政権の揺れる思いがにじむ日豪EPAの交渉再開となった。
昨春を最後に中断していた交渉に豪州が再び応じた背景には「国を開くため、世界の潮流から見て遜色のない経済連携を進める」という昨年十一月の菅政権の閣議決定がある。例外なき関税の撤廃を決断し、日本経済の復活を目指すと受け取れるこの決定に期待を寄せての復帰だ。
しかし、豪州は関税撤廃の対象からコメを除く姿勢を示したものの、乳製品、牛肉、小麦、砂糖については関税ゼロを要求しており、例外扱いを求める日本との構図は基本的に変わっていない。
日本は豪州の鉄鉱石、石炭、天然ガス、ウランなどの資源輸入をさらに安定させたい。自動車も関税撤廃で輸出を増やしたい。けれど、農産品の関税撤廃は日本農業への打撃が大き過ぎる−では平行線で終わってしまう。
日本のEPA締結国はマレーシアなど農業への影響が小さい国ばかりだが、豪州は資源国であり、農家が日本の千八百倍の経営面積を持つ農業国でもある。横綱級の豪州と交渉するからには、日本の農家が少しでも耐えられる体力の強化が欠かせないはずだが、それが遅々として進んでいない。
自民党政権時代に決まったコメ市場開放では六兆円を超える巨額の対策費を投じながら、競争力向上の形跡は見当たらない。農民票欲しさのばらまきが実態だろう。無駄な税金投入は許されない。
菅直人首相は日豪の妥結で欧州連合(EU)との交渉入り、今秋の合意を目指す米国主導の環太平洋連携協定(TPP)参加に弾みをつけたいようだが、六月の農業強化の基本方針策定まで残り四カ月。やっつけ仕事に映る対策で農業を元気づけられるのか。
日本の農業従事者の平均年齢は六十六歳、六割が六十五歳以上だ。同じように高齢化が進むEUでは、三十年以上続いている若者の就農支援が成果をあげている。
自由貿易網の拡大は避けて通れぬが、菅首相は担い手育成などの改革を実現させなければ、国を開いて日本経済を浮揚させる戦略が危うくなることを知るべきだ。
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