政府が新成長戦略の一つに掲げた「観光立国」構想が、出はなをくじかれた。昨年一年間の訪日外国人が目標の一千万人を大きく下回ったからだ。円高や中国漁船衝突事件の影響だけではない。
日本政府観光局が発表した昨年の訪日外国人数は約八百六十万人にとどまった。新成長戦略では、自公政権の目標値一千万人を引き継ぎ、二〇二〇年初めまでに年間二千五百万人、経済波及効果十兆円、新規雇用五十六万人とした。
影響が大きかったのは、昨年九月の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件による中国人観光客の減少だ。七月に観光ビザの発給要件が緩和され、八月は前年同月比57・3%増、十七万人余が訪れた。それが十〜十二月はいずれも減少に転じた。欧米の観光客は前年比微増となったが、金融危機や円高の影響は残る。
観光庁はこれら外的要因による影響は五十万人とみる。目標未達成の残る九十万人には受け入れ側の問題もある。交通機関や観光地の外国語表示が不十分なことや国内移動の複雑さが指摘される。海外での誘客宣伝も少ない。観光立国へ目標は掲げたものの、達成への戦略がないに等しい。
いま京都と東京・秋葉原が外国人の二大訪問地という。歴史遺産の神社仏閣や大都市の家電量販店では中国語、韓国語の案内看板が設置され、館内放送も流れる。中国人の採用を増やした大手百貨店もある。だが、まだ一部だ。
観光は内需と雇用の拡大を見込める成長産業である、という認識が足りないのではないか。まず国民が「もてなしの心」を共有することが大切だ。でなければ、観光をブランド化しているフランス、イタリア、スイスのようにはなり得ない。
観光局によると、外国人訪問者数で日本は世界三十三位。アジアでも中国、マレーシア、香港、タイ、マカオより少ない。美しい自然、安全な食べ物、ファッション、アニメ…日本の魅力が生かされていない。縦割りのせいか、国の対策も不十分だ。
最近、中国映画の舞台となった北海道の道東や、田沢湖など県内各地で韓国ドラマがロケされた秋田が人気を集めている。人間ドックを組み込んだ医療ツーリズムも徐々に増えてきた。全国各地が潜在力を持っている。旅行者は景色や建築物だけを見に来ているわけではない。そこに住む人々とのふれあいも求めている。温かいホスピタリティーが全国に広がってほしい。
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