菅直人政権が重要課題に位置付けている税と社会保障をめぐる議論が迷走気味だ。子ども手当の財源まで増税で賄おうというなら、政権公約(マニフェスト)違反であり、とても容認できない。
迷走が始まったのは、二月五日に首相官邸で開かれた税と社会保障に関する集中検討会議からだ。ここで菅首相は年金や介護、医療といった典型的な社会保障分野だけでなく、子育てや雇用も議論の対象に含める考えを示した。
子育てが広い意味で社会保障に含まれるのかどうか、議論はあるだろう。だが、民主党政権が掲げてきた子育て支援の柱は言うまでもなく、子ども手当である。ということは、菅首相は「税と社会保障の一体改革」の中に、子ども手当の財源も含めるつもりなのか。
与謝野馨経済財政担当相は国会で二〇〇九年度税制改正法の付則に消費税の使途として少子化が明記されていると指摘し、子ども手当にも使える考えを示した。
会議での首相発言や与謝野答弁を聞く限り、菅政権は消費税増税で得た財源を子ども手当にも使う考えであるようだ。枝野幸男官房長官も将来は子ども手当を全額国費で賄う考えを語った。
民主党の〇九年政権公約は、子ども手当を含めて新たに導入する政策の財源は基本的に無駄削減で賄う方針だった。もしも増税で子ども手当を賄うのだとしたら、明白な公約違反ではないか。
一方で、前内閣で財務相を務めた藤井裕久官房副長官は「消費税は社会保障のために完全目的税化すべきだ」という考えを語っている。完全目的税にするなら、消費税と社会保障の関係をはっきりさせるために特別会計をつくる必要も出てくるだろう。
菅首相はその後「子ども手当は無駄削減で賄う」と語り、軌道修正を図った。しかし、税と社会保障をめぐる基本的考え方が首相や閣僚間で食い違い、ぐらぐらしているのは隠しようがない。
さらに、議論の対象に雇用を含めたのも問題だ。およそ経済政策の目標は雇用の安定確保である。雇用確保も加えるなら、増税財源は事実上、なんにでも使えることになってしまう。
菅政権はなにを実現したいのか。「増税による財源を社会保障に使う」というのは単なる国民向けの口実で、本音は赤字財政のつじつま合わせではないか。そうならそうと正直に語るべきだ。本当の議論はそこから始まる。
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