昨年十月の生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)で採択された名古屋議定書の発効に向けて、国連の公的手続きが始まった。COP10の貴重な成果に、生命を吹き込むのはこれからだ。
十月三十日未明、松本龍環境相が高らかに木づちを鳴らし、生物がもたらす利益の公平な配分ルールを定めた名古屋議定書は採択された。だが議定書は、それだけで効力を発揮できるわけではない。
国連はまず二月二日から一年間、生物多様性条約の締約国に署名を求め、参加の意思を確かめる。そのあと、国会の批准、承認などを経て、正式に参加を承認した国や機関が五十に達すると、その日から九十日後に発効することになっている。各国はこの間に、議定書の円滑な運営に必要な国内法の整備を急ぐ。
利用国(先進国)から提供国(途上国)へ利益を配分することは、条約でも自明のこととされてきた。ではなぜ、そのルールづくりが難航したかといえば、利用国側からみれば、生物資源の入手手続きがその後も円滑に進むかどうか、提供国側からは、利益が確実に得られるかどうかなどの不安が、ぬぐいきれずにいたからだ。
COP10では、提供国側が資源入手の窓口や輸出証明書の発行など、利用国側は違法な取引を監視する機関の設置などを約束し、土壇場で歩み寄った経緯がある。生き物の利用に関する伝統的知識の価値をどう評価するかなども含めて、運用面の多くは国内法に任されている。議定書を生かすも殺すも国内法次第ということだ。
一方、議定書とともに採択された、生き物の絶滅に歯止めをかける「愛知ターゲット(目標)」の順守に向けては、自治体による地域戦略作りが進んでいる。
例えばCOP10の地元名古屋市は、市民の意見をもとに、省エネが進み、都心に鳥や魚が戻った百年後の都市像をイラストにした。そして、都心の森づくりや地産地消など、それを実現するための「わたしたちの行動」を提示した。生物多様性の保全とは、山川里海での自然保護活動にとどまらず、まちづくりにかかわる問題なのだ。
名古屋議定書も、愛知ターゲットも、いわば未完の大器である。国と国との約束事に終わらせず、自治体、企業、そして市民がそれぞれに、日々の暮らしの中でこれからどうかかわり続けるか、どう使いこなしていくかを考えないと、看板倒れになりかねない。
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