うんざり感が募る永田町です。国会では衆院解散・総選挙や内閣総辞職と勇ましい声が飛び交いますが、政策論議は乏しい。どうして、こうなるのか。
焦点の一つになっていた小沢一郎元民主党代表をめぐる問題は小沢氏が強制起訴され、ひと山越えました。しかし、小沢氏をめぐるカネの問題がすっきりしたかといえば、そうとも言えません。
法廷で決着がつくのですから、私たちは基本的に審理を見守ればいいのですが、国会における政治家としての弁明は結局、聞けないままになっています。
◆国会論戦が面白くない
では、国会の政策論戦はどうかといえば、税と社会保障問題にせよ、環太平洋連携協定(TPP)にせよ、議論を聞いていてピンとこない。核心に迫るような迫力を感じないのです。わくわく感もない。なぜ政策論戦が面白くないのでしょうか。
その理由を根本から考えてみると「論戦が私たちの手の届かないところで繰り広げられているからである」と思います。
言い換えると、テレビ画面の中で議員バッジをつけた人たちが声を張り上げていても「では、肝心の私たちに選択肢があるのか」と問うてみると、実は「よく分からない」ような現状なのです。
菅直人政権は「税と社会保障の一体改革」を掲げて六月に全体像をまとめると言っていますが、狙いは消費税引き上げで社会保障財源を賄う点にありそうです。それは分かっている。菅首相は参院選で増税を掲げたんですから。かねて増税が持論の与謝野馨氏を経済財政相に一本釣りした人事で、その意図は一層明白になりました。
加えて、改革を議論する集中検討会議の民間委員に自民党の税制調査会会長を務めた柳沢伯夫元厚生労働相を起用しました。こうなると、改革を主導する顔触れは自民党時代と変わりません。
◆自民党のような民主党
顔触れだけでなく、政策の中身まで似てきました。民主党は二〇〇九年総選挙の政権公約(マニフェスト)で税方式による最低保障年金の創設をうたいました。ところが、いつのまにか軌道修正して「民主党も保険料方式だ」と言い出すありさまです。
一方、自民党はどうか。こちらは先の参院選で消費税10%への引き上げを公約に掲げました。つまり、消費税引き上げでは菅政権も自民党も本音で同じなのです。菅首相自身が「財政再建で掲げた目標は、ほとんど一致している」と言ったとおりです。
年金の仕組みも、民主党が保険料方式だと言うなら自民党案と変わりません。民主党は本当に当初案を修正したのかどうか、党内で本格的に議論した形跡がないので、実はあいまいですが。
菅首相は交渉参加に前向きですが、党内には反対論も根強く残っています。とくに小沢グループには反対論が強い様子で、菅首相や仙谷由人党代表代行など政権中枢との権力闘争も絡んで、最終的にどうなるか分かりません。
自民党に至っては、いまだに党としてTPPへの賛否をあきらかにできない状況です。
こうしてみると、社会保障や消費税引き上げ、TPPといった国のあり方を左右するような重要課題をめぐって、民主党と自民党の違いがはっきりしない。
増税で両党が一致しているようですが、国会論議では自民党が解散を求めて、菅政権が防戦に回る構図になっています。TPPとなると、どっちの党がどうしたいのか分かりません。
国民の側から見ると、こんな政治の構図はまったく困った状況です。私たちは、政策で政治家や政党を選択したい。増税なら増税、TPP参加なら参加と態度をはっきりさせてもらいたい。
先に言ったように、国民はとっくに菅政権の増税志向を見透かしています。それなら、自民党は菅政権の増税路線とどう違うのか、国民がすっきり分かるように鮮明に打ち出すべきです。
民主党と自民党の大連立がささやかれるのも、実は「増税で一致しているから」という観測が背景にあります。それならそれでかまわない。国民は「増税大連立。是か非か」を判断基準に政権を選択できるようになるからです。
◆政府と官のリストラを
ただし、両党がそんな大連立に動くなら「それはだめだ」という政治勢力も出てくるでしょう。官僚の天下りも歳出の無駄や非効率も水面下で復活しています。増税の前に、政府と官僚のリストラ大改革が必要です。「改革か増税か」を争点に政策論争が戦わされ、選択肢が示されるような永田町であってほしい。政治を国民の手に取り戻すために。
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