全日本空輸(ANA)は国内航空会社で初の格安航空会社(LCC)を設立する。運賃は現行の半額以下を目指すという。安全運航を徹底して、観光立国と経済活性化の推進役になってほしい。
遅ればせながら日本の空に“価格破壊”が実現する。全日空関係者によると国内線では関西−成田空港間を五千円程度、国際線では関西−ソウル(仁川)間で七千円程度という思い切った運賃が検討されている。
同社が今月中旬にも設立するLCCは香港の投資会社などとの合弁である。関西空港に拠点を置き路線と運賃などを詰めた後、今秋をめどに運航を開始。五年後に約六百万人の顧客獲得を目指す。
LCCの最大の切り札は常識を覆す運賃設定である。現在の羽田−伊丹間の普通運賃は二万二千六百円。これが四分の一以下になれば高速バスよりも安い。半額としても「一度乗ってみようか」と空港に向かう人は増えるはずだ。
格安運賃は人件費などコストを徹底的に削減して実現する。小型機に統一して座席を詰め込み一回の輸送量を増やす。空港での滞在時間を短縮して機材の回転率を高め、客室乗務員は機内サービスのほか清掃や搭乗案内も行う。
自由化が進む世界の航空市場ではLCCはすでに大きな存在だ。米サウスウエスト航空は年間一億人以上の旅客を運ぶ世界最大の航空会社であり、欧州ではアイルランドのライアンエアが最大の航空会社に成長している。
アジアなどでもシンガポールやマレーシア、オーストラリアのほか中国、韓国でも続々と誕生し、関西や中部、成田そして羽田空港などに就航済みだ。
日本でLCCが定着すれば航空各社は新たな顧客獲得競争を迫られよう。日本航空(JAL)は「高品質なサービスを提供する会社」で再出発する方向だが具体的な戦略が必要だ。地方空港は着陸料引き下げが課題となる。
東海道新幹線は年間約一億四千万人を運ぶ国内輸送の大動脈だがLCC登場で新たな営業戦略が求められる。動きだしたリニア新幹線への影響も検討する余地があろう。また高速バスはきめ細かな生き残り策が不可欠だ。
課題は安全運航の徹底である。重大事故はLCCの崩壊に直結する。最新機材を投入するとともに自社と海外の整備専門会社を活用して万全の態勢を構築すべきだ。LCCが国民の新しい足として発展することを期待したい。
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