軍事政権が続いたミャンマーが四十九年ぶりに「民政」復帰する。三十一日からの国会で新政権が発足するが、総選挙を経たとはいえ、議席の大半は軍部のものだ。名ばかりの民政では民が泣く。
昨年十一月、自宅軟禁を七年半ぶりに解かれたアウン・サン・スー・チーさんが外に出て、まず驚いたのが出迎えた支持者たちの手にするカメラ付き携帯電話だ。
数年前はとても手が出せなかったが、今は中国製が百ドル(約八千円)もあれば買えるそうだ。一般的な国民の年収二百ドルの半分に匹敵するけれど、若者たちに広がっている。
スー・チーさんも自宅にインターネット回線が認められた。「ツイッターで世界に情報発信を」と意気込んでいるそうだが「都合が悪くなれば遮断するさ」と軍政不信がぬぐえぬ支援者もいる。しかしネットや携帯電話の発信機能が脅威であることは疑いない。
一九六二年の軍事クーデターから半世紀近くも人々の自由が抑えつけられてきたこの国で、やっと民政が復活する。真の民政がかなうよう願わずにいられない。
八八年に民主化デモが全土に広がった時、軍部は再びクーデターを起こし、総選挙と民政移管を約束した。でも総選挙でスー・チーさん率いる国民民主連盟(NLD)が圧勝すると、約束をほごにして居座ったのが今の軍政だ。国際社会の批判で昨年十一月に総選挙を再度行い、今回の国会招集となった。
けれど、選挙による議席の八割近くを占めた政党は何のことはない、軍政のテイン・セイン首相ら幹部が退役して結成した“軍製”党である。スー・チーさんを軟禁し、NLDも参加させずに強行した選挙結果だ。これとは別に軍部が指定する軍人枠も議席の四分の一ある。新大統領の人選など軍部の意のままだろう。
欧米の経済制裁は、逆に中国の経済進出をもたらすことになった。天然ガスのパイプライン建設など中国の相次ぐ投資で、国内総生産(GDP)は十年間で三倍ほどになった。利潤は軍部や富裕層が独占しているとされる。
民政復帰を一区切りに、韓国やタイなども投資を拡大させようとしている。かつて三割を占める最大の貿易相手国だった日本にも乗り遅れまいとの動きがある。
援助や投資が人々を本当に豊かにするのか。民政復帰の果実は民衆にもたらされるのか。世界が見きわめねばならぬ問題だ。
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