末期肺がんの治療薬「イレッサ」の副作用被害をめぐる訴訟で、被告の製薬企業に続き国も和解勧告の受け入れを拒否した。舞台が上級審に移る可能性が高いが、原告、被告双方とも歩み寄るべきだ。
例えば、薬害エイズでは血友病の治療薬である血液製剤にエイズウイルス(HIV)が混入していて製剤自体が欠陥品であった。
イレッサの場合、製品自体には欠陥はなく、一部の肺がんには極めて高い有効性を示し、現在も医療現場で使われている。だが、輸入販売元の「アストラゼネカ社」の添付文書にある「重大な副作用」欄における「間質性肺炎」の記載方法の是非、副作用の程度に関し事前の注意喚起が十分だったかどうかをめぐり、アストラ社や医薬品として承認した国の責任が問われた。
東京、大阪両地裁が示した和解勧告を両被告が拒否したのは、原告の主張を大幅に認め、被告に重大な責任があるという指摘は、医療現場の常識に反しているなどを理由に納得できないからだろう。
一般に抗がん剤は他の薬剤に比べ副作用が強く、死亡が避けられないことが少なくない。
イレッサは日本人の死因第一位のがんの中でも最も多い肺がんのうち、発見が遅れて手術できなかったり、他の抗がん剤が効かなくなり再発した末期患者に投与される「最後の命綱」とされていた。
それだけに多くの患者に使われた。それに伴い副作用死も多いが、死亡率では他の抗がん剤よりも特に高いわけではない。
ただ、発売前から副作用の少なさが強調され、患者の期待は大きかった。この空気に医療現場は左右され、漫然と投与することはなかったのか。「経口剤」のため非専門家の医師も安易に使用する懸念が以前から指摘されていた。
新薬の承認審査の場合、不確定要因があり、重い副作用まで事前に予測するのは難しい。結果として被告は十分に副作用情報を把握できなかった。被害を最小限にするには市販後の迅速な対応が必要だが、それが遅れたことは否めない。被害拡大の責任が全くないとはいえないだろう。こうした点を踏まえれば、原告と被告が歩み寄れる余地はあるはずだ。
現行の医薬品による「副作用被害救済制度」は抗がん剤による副作用被害を除外している。国はこの改善の検討を約束した。国民の間で幅広く議論したい。
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