今国会に提出される地方自治法改正案に、住民投票の法制化が盛り込まれる。箱モノの建設に限って住民に直接賛否を問うことを認め、投票結果に拘束力を持たせるという。うまく機能すればいい。
現行の地方自治法では、住民投票を首長解職や議会解散のリコールに限定している。近年増えており、名古屋市では議会解散の是非を問う住民投票の真っ最中だ。
もうひとつ、各自治体の条例に基づく住民投票がある。住民の直接請求などで条例制定した上で個別施策の賛否を問う。過去に約四百件が実施され、「平成の大合併」時に激増した。
ただし、これらには法的拘束力はない。地方自治法が定めた「首長の権限」を制約すれば、「条例は法律の範囲内で制定できる」とした憲法九四条に触れるおそれがあるからだ。沖縄県名護市では米軍ヘリ基地反対の住民投票結果が反映されなかった。
逆に、一九九六年に全国初の住民投票で原発建設の賛否を問うた新潟県巻町(現新潟市)や、町長襲撃事件もあった産廃施設建設の賛否を問うた九七年の岐阜県御嵩町など、結果的に民意に沿う形で計画の撤回、頓挫につながった例も少なくない。住民の意思表示は、やはり重い。
今改正案の趣旨は住民投票に拘束力を持たすこと。議会可決後でも、住民投票で反故(ほご)にすることができる。ただし大型公共施設の建設に限られ、基地、原発と国道、空港など広く公益にかかわるインフラは外された。国政への影響や知事会の意見に配慮したためだ。
実施するかどうかは自治体の判断に委ねられる。ならば、もっと対象について議論を深めたいところだ。住民の自覚と責任は地方分権の原点なのだから。実例を積みながら、検討したい。
首長と議会の対立は今後も増えるだろう。徹底した議論でも妥協点が見いだせない場合、議会制民主主義を補いながら民意を直接反映できる仕組みの一つとして、住民投票を考えたい。例えば恒久減税のようなことを問うならば、賛成、反対各派が説明を尽くす機会は格段に増え、住民の理解はずっと深まるかもしれない。結果として、自治を鍛えることにつながればいい。
改正案には、リコール署名の要件緩和も盛り込まれる。自治に住民の直接参加を促すのは、「サラリーマンを地方議会へ」と言う片山善博総務相の持論。そして、なれ合い議会への警鐘でもある。
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