米国の格付け会社が日本国債の格付けを引き下げた。財政悪化に対する警告である。金融市場の「日本売り」を招かぬように、財政再建に向けて、政府も与野党も地に足のついた議論が必要だ。
格付けとは、企業や政府などが発行する債券の信用度を評価して、投資家の参考にする仕組みだ。一般に格付けが高いほど信用があり、発行コストも低くなる。
そんな格付け会社の一つであるスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の格付けを従来の「AA」から「AAマイナス」に一段階引き下げた。これで日本国債の信用度は中国や台湾、クウェートなどと同じ水準になった。
二年連続で借金が税収を上回り、巨額赤字が積み上がった財政の実態をみれば、格下げもやむをえない。ただ、これで日本の信用ががた落ちになって危機に陥るわけではない。実際、国債取引も為替も株式相場でも、金融市場は総じて平静に受け止めている。
市場の一部には「ギリシャの次は日本を標的にして、空売りでひともうけしよう」という向きもあった。そんな商売の思惑が背景に絡んでいた可能性もなくはない。格下げを商売の種にしたい人々にとっては当てが外れた格好だ。
与謝野馨経済財政相は「消費増税を早くやりなさい、という催促」と解説し、増税論議の追い風にしようという意図を吐露した。だが、先の世界金融危機では格付け会社の営利優先姿勢が厳しく批判されたばかりだ。民間会社の格下げを頼りに増税を宣伝するのは、かえって逆効果ではないか。
お粗末さがにじみ出たのは、菅直人首相の「いま初めて聞いた。そういうことには疎いので」という発言だ。首相は国債の格下げがどういう意味を持つのか、理解していないのだろうか。
先の参院選では、ギリシャの財政危機を引き合いに消費税引き上げを訴えたのに、財政赤字と国債格下げの関係すら「疎い」とあっては首相の見識が問われる。
とはいえ、国と地方の基礎的財政収支は高水準の赤字を続け、二〇二〇年度までの黒字化達成目標ははるか彼方(かなた)だ。
赤字の裏側には、国と地方の二重、三重行政のような無駄と非効率が根雪のように残っている。公約の国家公務員総人件費二割削減や国会議員の定数削減も進まない。財政再建に着手するには、まず政府と国会議員が身を切る姿勢を示すことが最優先である。
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