鳥インフルエンザが猛威を振るう。愛知県豊橋市でも数百羽が死んだ。殺処分の数が増えていくたび心が痛む。封じ込めに全力を挙げるとともに、養鶏家の不安を取り除く手だても考えたい。
昨年十一月、島根県安来市の養鶏場で、十三羽の鶏が死んだ。県は、鳥インフルエンザの診断が確定するのを待たず、二万三千羽の殺処分に踏み切った。そして、養鶏場から半径十キロ圏内で鶏肉、鶏卵の移動を禁止した。「疑似患畜」の殺処分は、国内で初めての決断だった。
宮崎県新富町のケースでは、六羽中五羽の感染が確認された段階で、発生した養鶏場だけでなく養鶏団地内にいた四十一万羽すべての殺処分を開始した。感染の拡大を防ぐには、今のところ、このように速やかに封じ込めを図るのが最善には違いない。
昨年、同じ宮崎県内で多くの被害を出した口蹄(こうてい)疫から学んだ教訓でもある。苦い経験は生かされているはずだ。
ウイルスは、渡り鳥に運ばれた可能性が高い。国内最大のツルの越冬地である鹿児島県出水市は二十四日、消毒や防鳥ネットの点検など、予防の徹底を呼びかけた。しかし、侵入は防げなかった。
四年前の前回流行以来、特に鶏舎は様変わりした。窓のない方式が主流になり、厳重な消毒を受けないと、外からの立ち入りは許されない。まるで軍事施設並みのセキュリティー体制を整えつつある。豊橋の養鶏場も例外ではなかっただろう。
防除には、常に最善を尽くすべきなのは当然として、渡り鳥の行き来や人の出入りを完全に止められない以上、完璧はあり得ないというのが現場の実感だ。それ以外の対策も考える必要がある。
例えば卵は「物価の優等生」といわれ続けている。優等生を続けるために、鶏舎の大規模集約化が進む。ひとたびウイルスの侵入を許せば被害は甚大だ。発生時のリスクを分散するような、流通構造の改革も必要な時期に来た。養鶏現場では、ワクチン使用の解禁を求める声も高まっている。
養鶏家が「夜も眠れない」と心配するのは、殺処分後のなりわいだ。卵にしろ肉にしろ、懸命に価格を抑える中で、安全のための設備投資を絶えず求められ、生産者に自力だけで立ち直る経済的な余裕はない。
例えば経営再開の支援体制などを国が確立させないと、国内に鶏肉や卵の作り手はいなくなる。
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