日本有数のコリアタウンにある東京の山手線新大久保駅に、日本語と韓国語で書かれたプレートがある。酔って線路に転落した男性を助けようとして死亡した日本人カメラマンの関根史郎さん、韓国人留学生李秀賢(イスヒョン)さんの行為をたたえている▼<自分に同じことができるだろうか?>。だれもが自問自答して、<できる>とは答えられなかったあの事故から、きのうでちょうど十年になった▼秀賢さんの両親らが見舞金などを元に設立した奨学金制度を利用して、日本語を学ぶ韓国などアジアからの留学生は四百八十五人に。「日韓の懸け橋になりたい」という若者の夢は、形を変えて実現している▼同じ山手線では、転落した全盲の男性がひかれて死亡する事故があったばかりだ。全盲の人の実に三人に二人が転落の経験があるという。驚くしかない視覚障害者団体の調査結果は、鉄道各社にホームドアの設置など早急な対策を突きつけている▼JR東日本が山手線にホームドアを導入することを決めたのは新大久保駅の事故がきっかけとなったが、二十九ある駅のほぼすべてに設置できるまで七年もかかるという▼費用は理由にしてほしくない。新幹線の速度を競い合う巨額資金があるなら、身近な安全を最優先すべきではないか。それが関根さんと秀賢さんの勇気に応える道だ。悲嘆に耐える両親の姿を見て強く感じた。