少子高齢化や若者の車離れで、国内自動車市場の縮小が続いている。電気自動車やハイブリッド車などのエコカーは伸びが期待できるが、落ち込みに歯止めをかけるにはそれだけでは力不足だ。
二〇一〇年の国内の新車販売台数が前年比7・5%増の四百九十五万台となった。六年ぶりの増加だが、長期低落が底を打ったのではなく、政府のエコカー支援策による需要の先食いにすぎない。ピークだった一九九〇年の三分の二という低い水準だ。
一方で中国の新車販売は32・4%増の千八百六万台。二年連続の世界一で、市場はさらに拡大する勢いだ。国内自動車メーカーの業績が中国などの新興国頼みという構図は変わらず、生産の海外移転と国内の空洞化加速は避けられそうにない。
国内に残る工場もガソリン車より格段に構造が単純な電気自動車にシフトし、裾野に広がる部品メーカー群の仕事の目減りに拍車がかかりそうだ。海外勢を巻き込んだ電気自動車の価格競争激化も予想され、長期的に景気や雇用に悪影響を及ぼす懸念がある。
自動車業界は今、こぞって環境対応戦略にかじを切っている。当然のことだ。だが気掛かりなのは、車が持つ本来の魅力の発信がかすみがちにみえることだ。
国内市場の縮小には、若者の車離れの影響も大きい。若い世代にとって、車が単なる移動手段になったという側面は否定できない。だが例えば、富山市にある光岡自動車は個性的なデザインの車で注目を集める。車のかっこよさや運転の楽しさが見放されたわけではない。
トヨタ自動車が昨年末インド向けに発売した小型車は、暑さに備えて座席周辺にペットボトルを七本置けるようにした。徹底的にインド人のニーズにこだわった。こまやかな心配りの例だ。
国内市場では、消費者ニーズはより複雑化し多様である。優れたエコ性能は大前提だが、メーカーはそれだけでなく、生活スタイルの変化に対応した新たな車の楽しみ方を大胆に発信してほしい。例えば日産自動車はスポーツカーの新モデルで、内装とシートの色を二十種類の組み合わせから選べる上級タイプを設けている。
工夫と試みはもっとあっていいはずだ。過去にとらわれない革新的な提案でユーザーの心を引きつけない限り、自動車産業全体の盛り返しと空洞化食い止めは難しいだろう。
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