われわれは、ちょっと何かに難渋すると、すぐ「四苦八苦する」と言ったりするけれど、考えてみれば、それはいかにも大仰である▼仏教でいう「四苦」とは「生、老、病、死」。それに愛する者と別れる「愛別離」、求めても得られぬ「求不得(ぐふとく)」など四つを合わせたのが「八苦」だ。中でも「老」が一番厳しいと、これは、鎌倉時代の僧、無住が言っていることである▼高齢者の所在不明続発や、一人暮らし高齢者の買い物難民化など、「老」にかかわる最近のさまざまな出来事を思う。万引に手を染める高齢者が激増しているとも聞く。警視庁の調査には、少なくない高齢容疑者が、「孤独」を口にしたという▼古典エッセイストの大塚ひかりさんが以前、小紙に寄せた稿から孫引きすると、無住は『雑談集(ぞうたんしゅう)』にこう書いている。<昔に変はりて、身苦しく、障(さわ)りのみ多き中にも、人に厭(いと)ひ憎まれ、笑はれ侍(はべ)り>。身体的衰えも無論、つらい。だが、疎外感、孤独感こそ、本当に人の晩年を苛(さいな)むものであろう▼菅首相が、過日、「一人ひとりを包摂する社会」特命チームというものを発足させた。貧困や高齢で社会から孤立する人を減らす施策に乗り出すという。包摂とはまた難しい言葉だが、要は、社会が包み込むイメージか▼考えようによっては、こんな難題はない。しかし、確かに、手をこまぬいてはいられない。