賃上げは春闘の最重要テーマだが、今春闘では国内の雇用確保などにも焦点を当てるべきだ。新卒者の就職拡大策や経済社会を支える人材をどう育成するのか、労使間で話し合ってもらいたい。
春闘の形骸化を指摘する声は強いとはいえ、働く者にとっては今も重要なイベントだ。年に一度、従業員の賃金アップや格差の是正、長時間労働や非正規雇用労働者の処遇改善などを労使で集中的に協議する意味はますます重くなっている。
ただバブル崩壊後、経営側が債務・設備・雇用の「三つの過剰」解消を推進し、リーマン・ショック後は雇用維持が緊急課題と強く主張して以来、労働側の闘争心と賃上げ意欲は萎縮しがちである。
十九日に開かれた連合と日本経団連による労使トップ会談。連合側は定期昇給(定昇)維持と給与総額で1%程度の引き上げを求める考えを表明したが、経団連側は雇用重視の姿勢を示し給与アップには慎重だった。賃金の底上げとなるベースアップ(ベア)は、その言葉の影さえもなかった。
連合が二年続けてベア要求を見送り、トヨタ自動車や大手電機労組などが同じ方針を踏襲している以上、今年の賃上げ交渉はもはや勝負あったの感が濃厚だ。
労働側はこの際、雇用に交渉の重点を置くべきではないか。
国内雇用の海外流出が続いている。経済産業省によると製造業の国内雇用者数は一九九四年から二〇〇八年までに四百二十万人以上も減少した。経団連が行った試算でも今後五年間で三百万人の国内雇用が失われるという。
急速な円高で海外展開は小売業や中小企業でも活発だ。大手から中小組合まで今後の国内雇用をどう維持して技術などをしっかり引き継いでいくかは、労使間の極めて重要なテーマだろう。
昨年十二月一日現在の今春卒業予定の大学生の就職内定率は68・8%と過去最悪だった。高校生は十一月末で70・6%と前年よりも改善したが厳しさは同じだ。中途採用を含め、若者たちの雇用拡大に知恵を絞ってほしい。
非正規労働者たちの賃上げは待ったなしだ。均衡・均等待遇の実現とともに正社員への転換制度の整備を進めてもらいたい。
経済も企業も成長するには生産性の向上が不可欠。多様な人材を活用して高品質の技術や製品、サービスを提供する。そうした人材にはどんな待遇が必要か。賃上げ議論はそこから始まってもいい。
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