人類は、大したものだ。自然界に存在しないものをいっぱいつくり出した。では、これは可能か。太陽の光を使い、水と二酸化炭素を原料に、酸素やブドウ糖、でんぷんをつくる−▼残念ながら、これまでのところ否(いな)だ。だが、植物は、その光合成をいとも簡単にやっている。偉そうなことを言っても、人類は、田中修著『ふしぎの植物学』が言うように<たった一枚の小さな葉がやっている反応を真似(まね)することができない>のである▼それに挑む、というのだから野心的な研究テーマだ。実現すれば文字通り地球を救う大成果で、ノーベル賞ものだが、研究の提唱者がノーベル化学賞を受けた根岸英一さんだと聞けば、もしや、という気もしてくる▼それにしても、自然とは何とすごいものか。石田秀輝著『自然に学ぶ粋なテクノロジー』によれば、例えばクモの出す中で一番強い「牽引(けんいん)糸」という糸は、もし直径四センチのものがあれば、計算上は、ジャンボジェット機が持ち上げられるほど強いらしい▼そんな自然のテクノロジーを真似て、新素材などを生み出そうとする研究も盛んになりつつあるという。根岸さんの「人工光合成」も含めて、今後が楽しみである▼無論、簡単にはいくまい。でも、それも悪くないだろう。苦労すればするだけ、私たちは一枚の葉、一匹のクモのすごさをあらためて思い知ることができる。