チュニジアで強権政治を担ったベンアリ政権が崩壊した。民主化のドミノ現象が起きた東欧革命のように、近隣のアラブ諸国に飛び火するのか。まずは民主的選挙の実現が試金石だ。
政変のきっかけとなったのは大学を卒業しながら職に就けず、野菜の行商で生計を立てていた青年の焼身自殺だった。商い用の手押し車を没収され、絶望の果ての抗議行動だったという。
チュニスをはじめ各地で数千人規模のデモが起こり、暴動に発展した。治安部隊とデモ隊との衝突で多数の市民が死亡した。鬱積(うっせき)していたベンアリ政権への不満の大きさを物語る。
街に戦車が出動し、指導者が放逐される事態に、冷戦を終結させた東欧の民主革命を想起した人も多かったのではないか。東西冷戦下、共産政権は独裁体制の腐敗、過大な軍事費負担、経済の停滞に押し潰(つぶ)されるように自壊した。
長期にわたる独裁体制がもたらす弊害は明らかだろう。エジプトではムバラク政権がほぼ三十年続き、リビアではカダフィ大佐による強権政治が四十年以上続いている。近隣諸国から同様の焼身自殺の報が相次ぐなか、民主化要求の「共鳴現象」が広がる事態への各国政府の警戒心は強い。
メディアが担った役割も共通している。東欧革命では西側情報を伝える衛星テレビやカセットテープが民衆蜂起を後押しした。今回は最先端のネット情報が飛び交った。国民生活の疲弊をよそに、大統領一族が贅沢(ぜいたく)な食卓を満喫している様子を暴露するウィキリークス情報もあった。「これはウィキリークスを使い政府転覆を図った米国の陰謀だ」とのカダフィ大佐の非難も飛び出したほどだ。
東欧革命は東西の壁を崩したが新たな問題も生んだ。急速なグローバル化の中で先鋭化した経済の南北格差やイスラム過激派が煽(あお)る宗教対立が代表的なものだ。国の特産物にちなみ「ジャスミン革命」とも呼ばれ始めた今回の政変は、新たな秩序を模索しつつある国際情勢のただ中で起きた。旧政権の閣僚も含む暫定政権の行方は流動的だが、それだけに、早期の秩序回復と基本的な国家像の提示が決定的に重要になる。
新政権が進むべき道は、チュニジア国民自身が選択する問題であることは言うまでもない。暫定政権の下に行われる予定の大統領選挙が、強権的な押しつけではなく、民衆自らの手で開く民主化の先例となることを期待したい。
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