鹿児島県阿久根市の出直し市長選で、住民投票によるリコール成立で失職した竹原信一前市長の三選は阻まれた。二度の投票で竹原氏を退場させた民意は、混乱の終結と新たな創造を願っている。
二年半に三度も市長選があったのだから極めて異常だ。主因は竹原氏の強引な市政運営にある。
県北西部に位置する阿久根市は九州新幹線ルートから外れ、街の空洞化や基幹産業の漁業不振が続いた。竹原氏は二〇〇八年八月、官民格差是正を掲げ“救世主”として市長に初当選したが、議員定数削減などをめぐり議会と対立し、二度の不信任で失職。〇九年五月の出直し選挙で再選されると、議会を招集せず市職員・議員の賞与半額や副市長選任など専決処分を乱発した。独善的な手法がリコールにつながった。
当選した西平良将新市長はリコール運動を進めた市民団体の一員でもあり、争点を“竹原流”の是非に絞り支持を広げた。まずは「対立から対話へ」を有言実行とし、市政の混乱を収束させなければならない。選挙に明け暮れ、住民の間に残る感情的な対立を解くことも大事だ。
西平氏の八千五百九票に対し、竹原氏は七千六百四十五票で八百六十四票差。住民投票での賛否の差三百九十八票の二倍強に広がったとはいえ、小差だ。
閉塞(へいそく)感を打開するために大胆な改革は必要だが、議会を無視したやり方ではいけない−。二度の投票を通じて大方の市民はこう考えたのだろう。票差には、民意の熟慮も読み取れる。
西平氏の得票には「竹原氏じゃ駄目」という消去法の選択だけでなく、市職員給与や議員定数の削減など掲げた公約実現をはじめ、阿久根再生への期待も含まれている。これまでの路線をどう軌道修正し改革を定着させていくのか、最も注視したいのは、ここだ。
引き続き、市議会解散の是非を問う住民投票も二月二十日に予定され、リコールが成立すれば出直し市議選になる。いい機会だ。この際、ゼロからの再出発で市民による、市民のための市政をつくってほしい。
首長と議会の対立は名古屋など各地で増えている。行政や議会に対する住民の不信と不満は、全国にくすぶっている。首長のリーダーシップは否定しない。現状を壊すだけではなく、新たに創り出していくことが真の指導力だ。阿久根の教訓がどう生かされていくのか、日本中が見守っている。
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