ウクライナの大統領が来日した。曲折を経ながら民主主義を維持する旧ソ連第二の大国は、強権政治が続くロシア民主化のモデルとなりうる。北の大国に変化を促すためにも関係強化に努めたい。
ヤヌコビッチ大統領は十八日、菅直人首相と会談、日本によるウクライナ民主化への支援推進や、核軍縮での緊密な協力のほか、原発事故が起きたチェルノブイリへの支援事業などを盛り込んだ「グローバルパートナーシップに関する共同声明」に署名。大統領は世界有数の農業国として、菅首相に穀物の安定供給を保証した。
ウクライナはロシアを除き、欧州一の面積と約四千六百万の人口を抱える地域大国だ。ロシアと欧州をつなぐ地政学上の要衝にあり、東部はロシア寄り、西部は欧州志向に二分されている。
親欧米政権が二〇〇四年末の民主政変「オレンジ革命」で誕生しNATO(北大西洋条約機構)への早期加盟方針を打ち出すと、ウクライナを勢力圏とみなすロシアの逆鱗(げきりん)に触れた。
エネルギー資源を用いた揺さぶりで経済は混乱、政治も混迷を極める。昨年二月の大統領選で、「革命」に幻滅した国民の支持を集め当選したのが親ロ派のヤヌコビッチ大統領だった。
しかし、ウクライナとロシアの関係は一筋縄ではいかない。在京のあるウクライナ外交官は「親ロシア派だからロシア一辺倒と見るのは大きな誤りだ」と強調する。ロシアと友好関係を維持しつつ欧州統合を志向し、軍事ブロックにも属さずNATO、ロシア双方と協力する。
親ロ政権でも報道の自由や選挙の公正性などは一応維持されている。今年はソ連から独立して二十年。紆余(うよ)曲折を経て、安定を志向する現実路線に入ったといえる。
一方で、気になる点もある。最大の政敵であるティモシェンコ前首相ら前政権幹部に対する刑事訴追や身柄拘束が昨年夏以降相次ぎ、政治的弾圧と批判されているからだ。そうした懸念は早急に払拭(ふっしょく)すべきだ。
民主化の行方をロシアは注視している。民族的、歴史的に関係の深いウクライナで民主的な体制が安定すれば、ロシアでも民主化の動きに影響を及ぼすかもしれない。ロシアの強権体制で対外政策も硬化し、北方領土問題では高飛車な姿勢が際立つ。
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