NHK新会長に松本正之JR東海副会長の就任が決まった。二代続けての経済人起用だ。ジャーナリズム精神を育み、伸び伸びと番組づくりができる「視聴者のためのNHK」を目指してほしい。
「鉄道とNHKは公共性の面から基本的な価値観は同じだ」。松本氏は、こう持論を述べた。
しかし、価値観が共通するといっても、放送には鉄道と異なり、情報を深く取材し公平に伝える重い使命がある。
松本氏は「鉄道で言えばお客さま。放送で言えば視聴者が相手の仕事」と共通性を論じたが、放送事業は政府などの介入を排し、視聴者に正確な情報を届けねばならない。明らかに異質なものだ。
NHKのトップとしてジャーナリズムの精神に丹念に触れ、その責務に果敢に挑むよう望みたい。
会長選びは一度は内諾した安西祐一郎前慶応義塾長の就任拒否で白紙に戻ったが、NHKの最高意思決定機関、経営委員会はアサヒビール相談役だった福地茂雄現会長に続き、再び経済人を選んだ。
なぜ二代続けて経済人か。なぜジャーナリズムに造詣が深い人材に白羽の矢が立たないのか。
経営委の委員長も小丸成洋・福山通運社長が務め、その小丸氏が新会長選びで頼りにしたのが前委員長の古森重隆・富士フイルムホールディングス社長とされる。経済界という限られた範囲での候補者選びは、いびつにさえ映る。
NHKでは株式のインサイダー取引など、報道機関としてあってはならない不祥事が相次いでいる。松本氏の任命は、経営委員十二人の「NHK改革は外部出身者で」との意見が大きく左右した。
しがらみのない外部だからこそ解決の道が開ける。それが松本氏の力量を試す関門となる。その際には、経営と編集権の分離に十分な気配りが欠かせない。
福地現会長は過度に政界に神経を使ったNHK出身の会長とは逆に、むしろ現場への細かな注文を抑えたことで、歴史の検証番組などの制作が伸び伸びと進められ、高い評価を得ているという。
松本新会長もこうした手法を引き継ぎ、国民の立場に立った放送の独立に磨きをかけたらどうか。
今回は政治家との調整が慣習化していたかつての会長選びと一線を画した。政治と明確に距離を置く決意を経営委、全職員が共有する好機とすべきだ。それが、経営計画に記された「もっと身近にNHK」への早道になるだろう。
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