ネット時代の進展につれて、「匿名」には、暗いイメージが強まったように思う。中傷や犯罪の隠(かく)れ蓑(みの)。そういう面があるのは確かだろう▼最近、それを覆す匿名が列島にあふれている。アニメの主人公「伊達直人」を名乗る人から群馬県の児童相談所へランドセルのプレゼントがあったのを皮切りに、同様の行為が各地に広がり、まさに“タイガーマスク運動”ともいうべき様相だ▼寄付先や贈り物もさまざま。別のキャラクター名を使ったり、タイガーマスクを着けて寄付をしに現れた人さえ。新聞やテレビで報道されるのを面白がっての“参加”もあろうけれど、こんな善意の模倣ならいくら続いてもいい▼そして、この件に関連した報道を通じてあらためて知り、感嘆したことがある。この国には、気の利いた仮名を名乗るでもなく、普通の匿名で福祉施設などに長期間、寄付を続けている人の何と多いことか▼ある施設には、四十年間も「お年玉」を送り続けている人がいる。ある社会福祉協議会には、ここ数年、隔月で二万円が。偶数月が多いので年金生活者ではないかという。あり余るお金の中からとは思えない。陰徳。そんな言葉が自然に浮かぶ▼私たちも礼を言うべきだろう。世間にこれほど多くの善意が存在することを知り得たこと自体が素晴らしい贈り物だから。厳冬の候だから余計に温(ぬく)もりがしみる。